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島の奥に進んでいくと、克典は気配を感じ振り返った。受刑者であることを示すゼッケンを着た気弱そうな老人が木の影に隠れていたのだ。目が合った瞬間、老人は逃げ出そうとしたが、実里が追いかけ、足をもつらせ転倒した。克典は老人を見下ろす。
「お、お、俺を殺すな!」
克典の頭は不思議と落ち着いていた。この男を殺せば、娘の命が一年伸びる。実里がリュックサックからナイフを持った。
「私が殺すわ。あなたは抑えといて」
「わかった」
これが最期の夫婦共同作業になってしまう、というのに二人は冷静だった。娘が生きてくれれば、それでいい。
克典は強引に老人を抑え込んだ。ジタバタと抵抗していたが、実里が躊躇せずナイフを突き刺す。鮮血が散った。あっという間に老人の瞳からは意志が消え、身体だけとなる。
数秒後、見ていたのか係員が歩み寄ってきた。
「死亡を確認します」
「よろしくお願いします」
係員は手馴れた手つきで瞳孔の反射などを確認し、頭を下げた。
「死亡を確認しましたので、後はこちらにお任せください」
「はい……本当によろしくお願いします」
二人は深々と頭を下げた。人を殺したことに躊躇いを感じなかった。
老人の落ち窪んだ眼窩が二人を恨むように見つめていた……
その後も二人は受刑者を探して歩き回った。若い夫婦は泣きながら受刑者を捕らえ、中年女性は立ち尽くしていた。
あてもなく歩いていると、新庄の声が聞こえた。
「お前! 母ちゃんを……殺しやがって! 同じ目に合うといい! ほんとは真夏に汚らしい命をあげるのは嫌だ! でも、こうでもしないと俺は、お前を許さない!」
そっと様子を伺うと、写真の中の男はもうすでに息を引き取っていた。しかし、新庄は長年降り積もった怨みを果たすように何度も、何度もナイフを突き刺していた。
克典は、異様な光景に目が離せなくなった。
「行きましょう」
「あぁ、そうだな……」
実里の声で意識が戻った克典は受刑者を探す。と、岩の上に座り込む受刑者がいた。太っていて、顔色は悪い。
「好きにしてくれよ、どうせオレは死ぬんだ、ぐふふ」
気味の悪い笑い声を男は漏らす。目の焦点が合うことはなく、フラフラと揺れ動いていた。
「死ねば、オレの殺したマリンちゃんやスーちゃんに会えるんだ……」
いやらしい何かを感じ取った克典は躊躇なくナイフを突き刺した。ナイフは切れ味が悪く、更には男も太っているのでなかなか絶命しない。何度も巨体に突き刺すと、泡を吹いて男は意志を失った。
先ほど同様の手続きを係員が行い、あっという間に二人の寿命を奪い取った。
あの男がもし、娘を襲っていたら、下心を抱いていたら──そう考えるだけで恐ろしかった。
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