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03 循環
「──これで雫さんの寿命は十三年伸びました。定期観察には来ていただきますが、退院をしていただき、治療はこのお薬を飲むだけで結構です。手続きも終わっているようですので──お疲れ様でした」
医者は淡々と克典に告げた。苦悶の表情を浮かべることなく、安らかに自ら命をたった妻を脳裏に浮かべながらうなずいた。
「ありがとうございました」
雫には実里は心臓発作で死んだことにし、ライフ循環のことは新しい治療法が見つかった、と言った。
実里の死に雫は動揺し、うつ状態となったその一方、身体はみるみるうちに回復していった。困惑する娘に克典は、「お母さんの分も生きなければ」と繰り返し伝えていた。
あの日の手の感触を感じながら雫の病室へ向かう。二人はナイフで突き刺し、逃げ惑う女には舌打ちをしながら手榴弾を投げた。その後、妻は持参した薬を服用し、克典に見えない場所で首を吊った。
そのライフは雫に取り込まれ、自殺や事故にあわない限り循環していく。
克典はドアをガラリと開けた。
空っぽになった病室のベッドに雫は腰かけていた。色白で瘦せているが、数か月前余命宣告を受けたとは思えない身体である。
「帰るよ」
「うん」
二人は病院に挨拶をし、病院から出て行った。めでたい日なのに、雲が重く垂れこんでいた。
「雫、家でお母さんが待ってるよ」
実里の希望と、特殊な最期もあり、葬儀は行わっていない。
仏壇だけがひっそりと置いてある。雫はこくんと頷いて、克典の運転する車に乗り込んだ。
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