03 循環

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* 「ただいま」  帰宅後、二人は荷物の解体をある程度済ませ、ソファに並んで座った。雫は数年ぶりの我が家をゆっくりと見渡す。マンションの一室は小綺麗で、ソファの横にある和室にひっそりと仏壇があった。 「本当は、三人で帰りたかった……」 「そうだな……。でも、お母さんの分も生きるんだよ」 「……うん」  雫は微かに首を引いた。待ちわびた娘とのゆっくりとした時間。心なしか、写真の中の実里も笑っているように見えた。 「疲れたのか?」  いまいち元気がない娘に克典は声をかけた。雫の背中は震えていて、克典は背中をそっとさすった。  ──しかし、その手を雫は振り払った。 「雫?」 「──私、知ってるんだから。先生たちが話してる言葉とか、検索すれば一発なんだから」  その手にはスマホが握られていた。余命宣告時には新品同様だったカバーは使い込まれていた。 「お父さんたち、人を殺したんでしょ、その命を私に渡したんだよね。それで……それで……お母さんは私に命を渡すために死んだんだよね!!」  雫は涙をこぼしながらそう叫んだ。 「ちが……」    違う、そんなことしていない、ただいい薬があったから治ったんだ──言葉は出かかっているのに、声に出なかった。否定しない父の態度。雫は背を向けた。 「お母さんのところに行く」 「え、ちょっと待て、雫!!」  雫は克典の制止を振り払い、ベランダに飛び出すと落ちていった。数秒後、ドンっと鈍い音がして、覗き込むと微動だにしない雫が草の上に倒れていた。  草に浮かぶ露が儚く散るように、雫は散った。降り積もったライフも、散っていく。  克典は震える手でスマホを操作し、ライフジャパンの田中に電話をかけた。ワンコールするまもなく、電話の主は応答した。 「もしもし、こちらライフジャパンの田中ですが」 「あの、あの……正田ですが……雫が自殺を……」 「分かりました、ではそちらに伺いますね。克典様に循環すると言うことでお間違いないですか?」 「……はい」 「これは非合法ルートですので、決して口外しないでくださいよ」  克典は半年前、密かに余命一年と宣告を受けたばかりだった──
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