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プライスレスミートソース
「調理実習?」
台所で夕飯の支度をしながら、かなめは声のする方に顔を向け聞き返した。その相手は、反抗期がちょっぴり丸くなってきた三男坊だ。台所の入口に寄り掛かりながら少し不満そうに言った。
「そう。だからここに書いてあるもん、用意してくれ。」
何作るの?と、かなめは突き出されたプリントを受け取って読み上げる。
「へえ!ミートソーススパゲッティか!あとプリン。いいね。ツナサラダ。いいね。コーンスープ。これは私もお呼ばれしたい。」
一々リアクションがうるさい台所係に弥生は面倒くさそうに言い返した。
「あのな。こっちは授業なんだよ。それにこんなもん今時コンビニで買えんだろ。つーか買った方が安いし。わざわざ作る意味がわからない。」
なんとも中学生男子らしい発言だが弥生は本当にそう思っていた。確かにこれだけお金持ちなら料理が作れなくても困らないという発想になるのだろう。
「弥生君。手作りはプライスレスなんだよ。」
「プライスレス?」
怪訝な顔で弥生はかなめを見た。するとかなめは得意気になって続けた。
「そう。いわば愛ですよ。愛。エル、オー、ブイ、イー。」
「・・・いい加減にしろよ。」
ドン引きする弥生をよそに、本当なのにとかなめは眉をハの字にした。どんな高級な物よりも、今は亡き母や祖母が自分のために作ってくれたおにぎりやお味噌汁の方がかなめには恋しくてたまらなかった。
「調理実習楽しいよね。いいなぁ。材料の他にはエプロン、バンダナね。オッケー。」
かなめはまるで自分の事のように応えた。一方の弥生は台所係の態度にもう構わず言った。
「来週だからな。用意しとけよ。」
はいはいと頷いたかなめは、プリントを冷蔵庫に貼って夕飯の支度を再開した。
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