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やる気を見せる穣とは対称的に突然弥生の目から気迫が薄れ同時にゆっくりと力が抜けた。相手が構えていた腕を下ろしたのを見て穣は不思議そうに質問した。
「どうしたんだよ。」
弥生は俯いて何か考えているようだった。
「弥生?」
穣が再び声を掛けたが、この時の弥生の表情は外が暗かったせいか上手く表現が出来なかった。しかしすぐに声が返ってきた。
「俺の曾祖父ちゃんって、そんなにすげえ人だったのか?」
弥生にとっての曾祖父ちゃんは一朔の事かとわかると、穣は答えた。弥生から初代の事を聞かれるのは初めてだった。
「そりゃあこの家の産みの親みたいなもんだからな。喧嘩も強かったが、とにかく派手だった。それで人情味が溢れてて義理堅くて。大勢から好かれる方だったよ。」
対して弥生は、ふうんと声を出すがあまり想像が湧いていない様子だった。何となくだが、穣は最近の弥生が考えている事に察しがついていた。この家が他の家族とは随分と違うというのを中学生になった弥生はどう感じているのだろう。自己を確立しつつ、世間への見方が広がる成長過程で、自分が普通だと思っていた事がそうではないという事に気付き始めているようだ。
「漢って字が相応しい人だったな。」
これくらいの年頃ともなると自分のルーツを辿るのはごく自然なものであり、周りに聞くようにもなるのだろう。穣が弥生の成長を感じて僅かに嬉しく思っていた瞬間、弥生が言った。
「最近思うんだよ。俺は本当に天童家の人間なのかって。」
「は?」
穣は驚いて弥生を見た。今度は弥生の表情がしっかりとわかって、本気で言っているのだと思うと、穣の内心はひやりとした。
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