58人が本棚に入れています
本棚に追加
母親の満月はそれはもう想像の通りのお嬢様育ちだったらしい。弥生が産まれてすぐに他界したために、写真でしかその様子を思い浮かべる事が出来ない。だから、“この女性(ひと)が自分の母親”というのが満月に対する弥生の認識なのだ。
弥生は部屋に戻りながら想像を巡らせた。確かに初代も二代目も、天童家は凄いのかもしれない。その系譜の母親だってしっかりと受け継いでいたのかもしれない。が、本当はさっきの稽古の時間、穣に質問したかったのは“俺の父親の事を教えろ。”そう聞きたかったが聞けなかった。弥生は父親の事がどうしても気になっていた。だがそれを聞いて穣がどんな反応をするのか見るのが怖かった。というのも思春期になって、未だずっと誰も触れないこの存在に弥生は人知れず恐れを感じ始めていた。自分がいるという事が誰であれ両親がいるという事を証明している。そしてそれを間違いなく当然、ほぼ全て知っている人がいる。
“にゃー。”
弥生はびくっと肩を揺らした。声のする方を向けば猫の白雪がいて、青い瞳でこちらを見ていた。祖父八朔の愛猫だ。
「・・・脅かすなよ。そうだな、お前も口が聞ければいいのに。」
弥生は白雪の顎の辺りを撫でながら言う。そんな事を聞けば、今の関係性が変わってしまうのではと弥生は危惧していた。だから誰にも言えずにいる。自分の家族は不思議な部分が多すぎるのだ。
最初のコメントを投稿しよう!