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俺はすぐさま銭を集めて菊江に会いに行った。文ではなく、直接言いたかった。
久々の再会のはずが、菊江は浮かない顔をしていた。
「どうした、元気が無いな」
「うん、ちょうどよかった。松っちゃんに話したい事があったの」
「俺もだよ。いい知らせだ。親父さんの仇を見つけた」
菊江は目を丸くした。
「本当に!? どんな奴?」
「香月音矢という人だ。……どうした、菊江」
菊江は固まっていた。
「……その人が、おっとうを?」
「どうした、分かって嬉しくないのか」
「……その人に、身請けしたいと言われた」
今度は俺が固まる番だった。
驚き、怒り、数奇な縁。それらが一緒くたに合わさった感情に飲み込まれそうだった。
俺たちは抱きしめあい、ただ泣いた。
どれほど時が過ぎただろう。
俺は、口を開いた。
「どうするんだ。ここから逃げ出すか?」
菊江は首を横に振った。
「ダメ。逃げ切れた話を聞いたことがない。失敗したら、私も松ちゃんも、廓の人間に酷い事をされる」
「じゃあ、このままあいつの女房になるってことか!?」
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