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それから数ヶ月後。なんとか身請け前に毒薬を手に入れる事ができた。
ただの毒なら手に入るが、何せしくじる訳にはいかない。必ず死ねる毒が必要だった。
俺は登楼し、菊江に会いに行く。
菊江は綺麗だった。
命懸けの決心が、より菊江の美しさを際立たせていた。
俺は紙に包まれた毒薬を渡した。
「松っちゃん。ありがとう。何回言ってもお礼を言い足りないくらい」
「菊江」
「ごめんね。松っちゃんと夫婦になる約束守れなくて」
俺はそっと手で菊江の頬に触れた。
「叶うよ」
菊江は小さく息を呑んだ。
「俺も飲むよ。同じ日、同じ刻に。これで、俺たちは一緒になれるよ」
菊江は笑った。
それは、昔見た笑顔と同じだった。
「松っちゃん」
ガタリ、と音がした。
俺たちは音のする方を振り向いた。
菊江は驚いた。
「あなたは」
その人は大変な事を聞いたと、顔は青ざめ、落ち着きをなくしていた。
聞いた事がある。吉原では足抜け(吉原から逃げ出す事)を計画しただけでも酷い目に遭うと。
菊江は頭を下げた。
「どうかお願いします。今の話はあなたの胸だけに留めていて」
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