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「でも」
「俺からもお願いだ。この通り」
俺も両の手をついて頭を下げる。
その人は思案しているようだった。
もう一押しだ。
「どうか。一生に一度の願いです」
そして髪から簪を引き抜いた。
「この簪は、ここに居る、腕のいい職人である松太郎さんが作ったもの。いつかあなたがお金に必要になった時にきっと役立つわ」
そしてその人の手に簪を握らせた。
「ね、お願い」
その人はゆっくり、小さく頷いた。
*
ガハッと俺は血を吐いた。いよいよ毒が回ってきたようだ。
痛かったはずの喉が、全身が。
もうなにも感じなくなってきた。
「菊……江」
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