僕はツイてる

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『それ』が初めて現れた日は、雨が降っていたと思う。  朝から降っていたのだろうけど、寝ぼけていた僕の耳には届かなかった。  まだ夢の中に片足を突っ込んだまま、朝食を平らげもそもそとスーツに着替える。さあ行くぞと玄関を出たところで、頭上から落ちてくる水滴に気が付いたのだ。  しとしとなどという生温いものではない。土砂降りである。玄関から門までにある飛び石は、すっかり水没してしまっていた。よくもまあこの音が聞こえなかったものだ、と自分に呆れる。……って、ちょっと待てよ。  僕は自転車で駅まで行き、電車で通勤している。けれど、この水量ではとても自転車なんて乗れるわけがない。  となると、歩いて駅まで行かなくてはならないのだが……電車の出発時刻はいつになっていたっけ?  僕はにわかに血の気が引いた。 「遅刻じゃないか!」  玄関の近くにある傘立てから一本引っ掴むと、バシャバシャと水飛沫をあげて僕は走り出した。ズボンの裾が濡れるなんて気にかける余裕はなかった。  まったく! 朝からツイてない。
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