「二」

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「ああ、どうぞご遠慮なく」 僧は、さらりと勧めてくる。茶など、たいしたものではないと、扱いなれた感じがした。 案外、この寺は由緒ある、名刹と呼ばれている所かもしれない。だから、高価な茶などを持ち合わせているのか……。 そういえば、貴族の子息が、世をはかなんで、出家するという話をよく聞が、それか? 僧の華奢な体付きも、色白の面長な顔も、そうならば、説明がつく。 「さあ……どうぞ、どうぞ」 とにかく、こう強いられては、実に居心地が悪い。 男は、覚悟を決めて、ぐいと茶を飲み干した。 喉に暖かな感触が流れ、口腔から鼻腔へ、新芽の香りが広がっていく。 ごくりと喉を鳴らし、男は初めての茶を(たしな)んだ。 思いのほか、苦い。まるで、渋柿をかじったかのような後味が、口に残った。 「ああ、白湯と違って茶は渋いでしょう。ですが、疲れがとれますから……」 歪んだ男の顔に、すべてを悟っているかのような言葉を返して、僧は微笑んだ。 「あっ、いや、その……」 男は、頭を掻き、小さくなった。もてなしを受けておきながら、これは、ばつが悪い。 「誰でも茶は渋いと感じるのですよ。私どもは、瞑想中におきる眠気を避けるため、嗜むのですから」 修行中、居眠りをしないため口にするのだと、僧は茶の渋さを説く。 と言う事は、やはり。 茶が軽々と手に入る、徳のある高僧という事か。 男は、場違いさに押されて、さらに小さくなった。 「おぉ、お寒うございますか?」 身を縮める姿が、寒さに震えていると写ったらしく、僧は炭を持ってくると言って、裏方へ向かった。 (かご)に炭を盛って、僧は現れたが、やおら、炭を男に預けると執拗に戸締まりを始めた。
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