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「はい、何でしょうか?」
まさかサインをくださいとか言わないよねとわたしが構えていると子犬みたいな女の子はにっこりと笑いそして、
「あの……財布を落としてますよ」と言った。
「えっ? 財布?」
「はい、足元に財布が落ちていますよ」
子犬みたいな女の子はわたしの足元を指差した。
「あ、えっ!!」
わたしは自分の足元に目を落とした。すると、クマ柄の長財布が足元に落ちているではないか。
「中川さんの財布ですよね?」
「あ、はい。わたしの財布です。ありがとうございます」
わたしがお礼を言ってクマ柄の財布を拾おうと腰を屈めたその時、子犬みたいな女の子が、
「あの……可愛らしい財布ですね。イメージと違いますね」と言ってクスクスと笑った。
そのイメージと違いますねはどういう意味なのかなと考えると馬鹿にされているのではないかなと思いムッとしてわたしは顔を上げた。
「わたしにクマ柄の財布は似合わないですか?」
「あ、いえ、違いますよ。なんていうのかギャップがあるなと思ったんですよ」
「ギャップですか?」
「はい、クールなイメージの中川さんがクマ柄のお財布を持っているのがなんだか可愛らしいなと思ったんですよ。あ、勝手に名前を呼んですみません」
そう言って子犬みたいな女の子はにっこりと微笑みを浮かべた。
「あ、そうでしたか。それはありがとうございます」
わたしは、うふふと笑った。
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