一章

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 自分の事しか考えていないこの男は、あれから気に入らいことがあったのだろう。それが霊障だったのかは分からないが、自分にとって不都合な事だったに違いない。  そして生き霊と化け物を見ていたにも関わらず、何もせず何も変えようとはしなかった。だから前回と何も変わらず、瀕死の愛人と化け猫が日高にベッタリと張り付いたまま。  この男、最悪だなこりゃ。  料金も払わず啖呵を切って帰ったのに、再度足を運ぶ事になろうとは思ってもみなかっただろう。  それに、俺に頭を下げてきたのならその先のことを考えてやっても良いだろう。が、再び暴言を吐いて逆に怒鳴られて、それで相手が助けてくれるとでも思ったのか?   それは無い。  あれから日高は奥さんに事の全てがバレた。そしてバレた原因は俺にあると再来訪したと言うわけだ。  では仮に俺が奥さんにバラしたと言うならば何の得がある? 逆に何故厄介事を自ら抱え込まなければならないのか?  意味が分からん。  ここ数日の流れはこうだ。 日高は自宅に戻ると家族にバレていないか警戒した。でも家族みんないつも通りの接し方だったことに安堵する。 しばらくすると嫁が情緒不安定になり離婚の話を持ちかけてきた。それに驚いた日高は、誰がバラしたのか詮索を始める。 もしかしたらコイツが犯人か? と義母に攻撃の目を向ける。が、ボケ始めた人間がそこまで考えられないだろうとターゲットから外す。 もしかしたら盗聴器が仕掛けてあるのでは無いかと探すが、そんな物は見つからない。 途方に暮れた日高は、犯人はアイツだ! 的な感じで俺の所へ足を向ける。その途中、あの占い師は僕を助けるつもりはなかったのか?! と、その時に対処しなかった事に腹を立てズカズカと侵入し、神聖な場所を汚そうとした。  全て自分が招いた惨事なのだが、誰かのせいにしたかったのだろう。後始末が出来ない人ほど他人に罪を擦り付けたがる。  実際にそのバラした人間は娘だった。日高の五歳になる長女は愛人と化け猫が見えていた。しかもお互いに会話が出来ていて、現在の愛人の居場所や今までの流れが長女を介して母親に筒抜けだった。それが義母に伝わり、愛人の本体に辿り着いたと言うわけだ。  嫁と義母は事実確認をするために日高を問い詰めた。あまりの剣幕に白状せざるを得ない状況。で、今に至る。  幸いなことに愛人の生き霊は日高に対する愛憎が強かったので、長女に霊障が及ぶことは無かった。化け猫も長女とは仲良く遊んでいたらしく霊障は無かった。さすが動物。  人間と霊、ねじれた関係と愛と憎しみ。  全てを救ってやりたいが、今の俺には限界もある。そして助けてやりたくない奴もいる。  そこが大人になれない俺のネックでもある。  
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