二章

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 何かを隠している様にも見えるが、そんなに器用な男だとは思えない。そして俺はよくある二重人格を疑った。 「城山さん、何か困ったことはありませんか? 例えば眠れないとか疲れが取れないとか」 「はい、グッスリとは眠れていないと思います。体が休んでいないと言うか、この所ずっとそんな感じです。毎日十時間も寝ているんですが」 「十時間も?」 「はい、寝過ぎで体がおかしいと言う感じでは無く、それでも朝起きると体が疲れているんです」 「そうですか」  透視した所の、城山の背後で行われている光景が原因ではないかと推測する。  このまま進むと城山自体がダメになってしまうかも知れない。そして最悪、体を乗っ取られてしまう可能性も出てきた。  これでは結婚どころの騒ぎではない。先ずはこの状況を改善しなければ。  俺は城山に憑く者に尋ねた。 「その者、何のために主に憑くか」  誰も現れない。勿論ホイホイと出てくる訳は無いとは思っていたが、そのしぶとさに苛立つ。  こちらからの問いかけを無視するならば炙り出すほかない。そう思い俺は取り憑いた者が嫌う煙を放つ。  白椿にジャスミンの線香を焚くように指示を出す。いつものようにサイドテーブルにそれを置くと、真っ直ぐに煙が上がる。  今回は見慣れない煙の上がり方だ。真っ直ぐ上がった煙は天井まで辿り着くとそこにへばり付いた。こんなに無風な訳がない。  さぁ、この騙し合いでどちらが勝つかな。  俺は印を結び呪文を唱える。すると城山は左右に揺れ始めたかと思うと、口を大きく開け白目を剥いた。揺れは大きくなり椅子から落ちそうなくらいにまで振れた。 「この主に憑く者、姿を現せ」  城山の背後に、城山が薄くなった影が見えた。 「お前は誰だ? 城山じゃないな」 「シロヤマ。オレハシロヤマ」  城山な訳が無い。俺は不覚にもちょっと笑ってしまった。実際に本人に本人が憑くこと自体が間違っている。この霊はお馬鹿さんなのかな? 的な。  その流れを白椿は真剣に見ていた。 「ではお前に問う。なぜ本人に本人が憑くのか」 「オレハシロヤマ」  違う、それは違うよ。  このまま行くと平行線のままだと思われる。ならば違う方向から攻めてみよう。 「では本物と言い張るお前に聞こう。なぜそんなに異性との快楽ばかりをしているのか。私には見えているぞ」  偽物の城山は俺を睨み付けてきた。そして部屋の空気の流れが変わる。  ジャスミンの線香はその風に煙を掻き乱され種火が赤々と燃えている。
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