二章

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 その風が止むと城山から偽物の城山が抜け出てきた。本体の城山は力が抜け椅子の背もたれにダラリと反っくりかえっていた。 「現れたな、偽城山」  偽城山は本体から付かず離れずの位置でユラユラと蜃気楼の様に黙って立っていた。 「本物だと言うならば、ハッキリと姿を見せよ」  城山と半分重なるように偽城山はくっきりと現れた。警戒しているのが見て分かる。  本体から完全に離れると霊を抹消することが出来る。が、本体に重なっていると、本来人間に入り込んでいる魂までも一緒に抹消されてしまう。  意外と考えているな。俺が笑うほどバカではないようだ。  しばらくお互いを詮索しながら沈黙が続いた。  その間に偽城山のイメージを捕まえた。 遙か昔の光景。まだ刀を振り回している時代だと思われる。そこにいたのは冴えない男、偽城山だ。どうやらその時の人間だったらしい。 偽城山は自分の事が好きではないようだ。水辺に映る自分の顔を見てはため息を付く。身長も低い、顔も悪い。この身なりのせいで周りから引かれていた。 仲間もおらず独りぼっちの偽城山は、塞ぎ込んでいるうちに性格も暗くなっていき死を考えるようになる。 そんな時、父親に決定的な言葉を言われる。お前は何でこんなに不細工なんだ、恥ずかしいから外へ出るな、と。 こんな自分に産んだのは両親じゃないか! そう結論付けると刃物で両親を殺める。その後自身も首を切り自害した。  結論から言おう。自殺した人間は、人間に転生しない。なお言えば、動物、又は虫にすら転生出来ない。ましてや人を殺しているのなら尚のこと、その魂は失格と見なされて天界にも帰れない。  それだけ人間界の命は大切なものなんだよ。  一人の人間がどんなに欲張っても、一つしか持てない大切なものなんだよ。  だから、この偽城山はずっと亡霊のまま今に至ると言うわけだ。  長い長い時を経て、いまだに人間に転生出来ないのは己のせいだと気付いてはいないのか?  その当時の悔恨なのか、人間に取り憑いてはその恨みを晴らす。過労のため早死にさせて次の人間に取り憑くと言った繰り返し。だが名残は捨てきれないようだ。今の城山のような冴えない人間に取り憑く。  では、その過労の原因とは何だったのだろうか。  人間の体は、日の三分の一を睡眠が締めている。これは体を休めるための大切な時間だ。城山はそれを取れていないと俺は見た。  日中は仕事、夜は布団に入るなり気絶したように眠る。そこからが偽城山の動き出す時間だ。  
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