二章

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「オレハブシ。カネ、コドモ、オンナ、タクサン」  偽城山は片言でそう言ってきた。俺の見た物とは全く違う返答だ。  俺は武士。金、子供、女、沢山。  これは偽城山の当時の理想ではないかと推測する。俺の透視は間違っていない。何故なら白椿も同じことを見ていたからだ。俺と白椿は見合ってお互いを確認した。 「先生」 「そうだね」  出来れば偽城山には、穏便で安らかにあの世へ旅立って欲しい。だがこの強力な怨念、今日に限ってはそうも行かないようだ。  既に臨戦態勢に入っている白椿は、いざという時、俺を守ろうとする態勢は出来ているようだ。もし俺の力が及ばず白椿まで巻き込んでしまったらと思うと、苛立ちと焦りが俺の不安を煽り立てる。  そんな睨み合いをしていると、この厄介な偽城山は少しずつ本性を現す。  長年の怨念は厄介。おまけに今まで取り憑いて死なせてきた奴等まで連れている。  そして、この怨念は誰に向けられたのか? なぜここまで執着しているのか? それらを考えると、生半可な気持ちで迎え撃つのは難しい。その力、かなり強い。  睨み合いが続いた末、偽城山が仕掛けてきた。怯んだつもりは無かったが、その隙を突いて偽城山は俺を自分の異世界へと連れ込んだ。  霧が立ち込めてきたかと思うと、強い横風が吹き風の渦ができた。そして巻き上げられた砂埃に視界を奪われる。  霧が晴れ風がおさまると、どこからか良い匂いがしてきた。辺りを見回すとズラリと並んだ家屋の一角に立派な武家屋敷があった。そこから男性が一人、勢い良く掛け出てきた。 「御飯だよ、早くおいで!」  どうやらこの幻想に住む偽城山のようだ。少しだけ面影か残るその風貌は、今で言うアイドル的な感じで、背も高く整った顔立ちはこの世の者とは思えない程の美形だ。  その声に反応して、小さな子供達がワラワラと七人程が集まり出す。子供達は何事も無かったかのように俺の体を通り抜けていって、偽城山に抱きついた。 「お父さん!」  この子供達は偽城山の子供だったのか。それにしても可愛いなぁ。その子供達をあやしながら家屋へ入っていくその幸せそうな光景。そして振り向き様にチラッと俺を見ると偽城山はニヤリと笑った。  その為て遣ったりの顔を見て思わず本音が出た。 「俺を騙せているとでも思っているのか?」   素が出てしまった。
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