二章

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「なぜ彼女の画像を持ってるんですか」  そのタブレットには子供を抱いた婚約者とその横には男性がいた。どう見ても夫婦にしか見えないそのアングル。 「残念ながら、婚約者さんは既婚者ですね」  城山には過酷な現実だったようだった。婚約者を信じてここまで来たんだから。おそらくこの既婚者も夜な夜な徘徊をしていた偽城山に引っかかった一人なんだろう。  どんなに見た目が悪くても、心が優しく大切にしてくれたなら惚れるのは当たり前の事。ましてや寂しかったり、心が傷付いていたりしたら尚の事。そんな人の感情を利用して、自分の欲を満たしていた偽城山は最低な奴だ。本当に最低だ。  今回の件は、死と隣り合わせと言った緊張する場面もあり、自分の愚かさや未熟さを思い知らされた回だった。  一人では解決できなかった。それだけが今の俺に重くのし掛かる課題だ。 「先生? 体調は大丈夫ですか?」  今日の予約が全て終わり、仕事部屋でお茶をすすりながら白椿が心配してきてくれた。 「ありがとう、本当に助かったよ。白檀、よく気付いてくれたね」  白椿は自分の椅子を俺の側まで持ってくると、また質問タイムが始まる。 「先生? 聞いてもいいですか?」 「いいよ」 「城山様は取り憑かれた事に気付くことが出来なかったらどうなっていたのでしょうか?」 「近いうちに亡くなっていただろうね。それが城山さんでは無かったとしても短命だったと思うよ。タフな人だったら何ヶ月もその状態でいられるだろうし、弱い人だったら数日で死んでしまったかも知れない。睡眠は大切だから」 「数日で」 「そうね。城山さんは頑張ったと思うよ。それにここに来れたことが救いだよ。  実はね、城山さんのお母さんが亡くなっているんだけど、そのお母さんがここへ導いてくれたんだよ。うちの子を助けて下さいって」 「お母さんが?」 「お母さんだけじゃ守り切れなかったんだね、きっと。だから俺に助けを求めて来たんだよ」 「お母さんの愛ですね」 「そうね。俺も白椿の愛で助けられたからね、感謝しないと」  白椿は複雑な顔をしていた。多分、愛と言う捉え方を勘違いしていたと思う。  師弟関係は恋愛禁止だからね。 「先生? 私のこと愛してるんですか?」  そんな真面目な顔をして聞かれると返事に困る。  確かに師弟関係は恋愛禁止だが、愛がゼロな訳では無い。妹の様に可愛く思ったり、奧さんのように世話をしてくれるのも嫌いじゃ無い。  では、そこに愛があるのか? と聞かれたら無いとは言えない。一緒に暮らしていれば情もわくし大切にしなきゃと言った感情も生まれる。  そんな言い分けみたいな事を連ねてみる。
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