二章

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 そして別の日。電話での予約の時、城山の意識の中に城山のお母さんが現れた。  ずっと泣いていて、自分の息子が心配でたまらないと言った様子を俺に訴えてくる。 「城山さん、失礼ですけどお母さんはご健在ですか?」 「はぁ、去年亡くなっております」 「そうですか」  そして、これまでの経緯をサブリミナルで見せてくる。母の力は偉大。どうしても守ってあげたかったのだろう。  では、なぜ俺にアクセスできたのか?  理由は、嫁だから。  嫁はその家系とは血の繋がりがないので、本家からの監視が低いわけだ。  そうやって色々な物が多方面から引き寄せ合って、一つの塊が出来る。  それは良い物なのだろうか?悪い物なのだろうか?  いずれにせよ育ってみないとわからない。  数日して、リビングのスイトピーの花びらが散った。 「白椿、花が!」  モップをかけていた白椿は、そのまま床の掃除をしながらテーブルまで来た。 「花びらが全て落ちましたね」 「サヤエンドウはまだ成らないの?」 「まだですね」  色気のないスイトピーを挟んで二人で観察をする。俺は早くサヤエンドウを見たかった。  ニッコリ笑いながらスイトピーを眺める白椿の顔。こんなに子供みたいな顔をする時があるんだと思うと、まだまだ女の子だなぁと微笑ましくなってしまう。  俺は花の真ん中にある変形した雄しべを眺めていた。これがサヤエンドウになるなんて、とドキドキワクワクで観察をする。  その向かいで白椿が俺を見ていたようだった。  スイトピーの茎越しにふと目が合う。  白椿は一瞬で目をそらして三時の方向を見る。  その顔は赤く火照っているようだった。 「えっとぉ、俺、何かしたかな?」 「何でもないです」  そう、冷たくあしらわれて寂しくなった俺。 「白椿?」 「何でもないですってば!」 「なんでそんなに怒ってるの?」  白椿を追い掛ける俺の足元を、執拗にモップで突いてきた。俺はそのまま中庭へ出されてしまった。  その一部始終を見ていた大和。助けを求めたが、さすがに大和はそんな事はお構いなしで尻尾を振ってくる。 「大和ぉ。何とかしてよぉ」  そう言って頭を撫でると、尻尾が千切れそうなくらいにフリフリして俺に絡んできた。そしてひとしきり戯れる。 「しかしお前は可愛いなぁ」  芝生に倒れた俺の顔をベロベロなめ回す大和。 「頑張ったご褒美は、オエッてならないガムにしよう」  そう言って大和のおやつを取りに行こうとしたら、サッシを閉められていた。 「締め出された。えっ? 俺、本気で何かしたかな? 白椿ちゃん? ねぇ開けてよ!」  元気いっぱいの大和が俺のズボンの裾を噛んで遊び始めた。  
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