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三章
「おはようございます。先生? そろそろ起きないと時間に追われてしまいますよ」
今日は朝から白椿を連れて出張の予定。予約をしてくれたおばあちゃんの自宅へ行かなければならなかった。
夕べは布団に入ってから全く眠れなくて今に至る。
「もう少しだけ寝かせて」
「先生? 子供じゃないんだから」
そう言って白椿が布団をめくった。
「キャッ」
俺の寝姿を見て驚いた白椿は、布団を掛け直して寝室から出ていった。
今日に限って全裸だった。
うつ伏せで良かった。
朝食を済ませて車に乗り込む。白椿はずっと黙ったままだった。
「白椿、俺の体はそんなに目の毒だったか?」
それでも何も言わない白椿。俺は腕をムキムキして見せた。
「この細マッチョな感じが格好いいって、ご近所の奥さんに褒められたんだけど」
「そう言うんじゃ無いです!」
「あっ、男の裸はダメだったか。ごめん、いつも全裸で寝てる訳じゃ無いんだよ。夕べはなかなか」
「もういいですから!」
結局和解にはならなかった。女心はわからないし難しい。
そんな地獄のような気まずい時間を三十分ほど過ごすと、庭付きの大きなお屋敷に到着。そこにはおばあちゃんが一人で住んでいた。
車を止めるとおばあちゃんに案内されて中へ入る。
この重い空気は何だろう。奥から生温い湿気った空気が流れてくるのがわかる。まるで誰かが風呂へ入っているかのような錯覚になる。
そして奥の立派な座敷へ通されてしばらく待った。
「先生、あのおばあちゃんお一人の様ですけど大丈夫ですかね」
「まぁ、話しを聞いてからにしよう。感じる物は色々あるからね」
おばあちゃんは温かいお茶を出してくれた。
その身なりは気位高めのお洒落なおばあちゃんだ。そして動きや話し方にとても品がある。幼い頃からそれなりの躾を受けたのだろうと推測する。
その、気位高めの理由は体にあった。
皮膚と言う皮膚に深いシワが刻み込まれていて痛々しい程のシワだ。それと重なるように顔の半分に火傷の跡があった。ケロイドの部分もあったが痛くは無いようだ。
おばあちゃんは俺達の向かいに座ると頭を下げて挨拶をした。
「本日はわざわざお越し頂きありがとうございます。この通りヨボヨボのおばあちゃんなので歩く事もままならなくて。
私、春ヶ野春江と申します」
「よろしくお願いします」
こうして俺達は霊障との戦いに足を踏み込む。
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