三章

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 何代も続くこのお屋敷は、この春江さんの代で終わると言う。代々女性しか生き残れず、男児が産まれても不慮の事故や病気で幼い頃に命を落としてしまうのだとか。その女児だけで婿取りをしてきたが、ここへ来てその代も途切れると言う。  春江さんには三十歳代の娘がいたが繰り返しの堕胎のため、子供の産めない体になってしまった。可愛がられた一人娘も今では病院でチューブに繋がれた生活で、意識はあるが自発して動くことが出来ない状態だ。 「ご相談なんですけどね。死んでしまった主人の事を聞きたいんです。名前は真次(まさつぐ)です」  春江さんはゆっくりと言葉を選びながら話し始めた。 「今でも居るようなんですよ。朝起きて感じるんです、主人の暖かさを。  あの人が亡くなって五年が経ちます。でも、まだ側に居るんじゃないかって思って。  それで、龍河(りゅうが)さんにお聞きしたいと思って。今どこで何をしているのかを。それでご足労願った次第です」 「そうだったんですね。ありがとうございます。  三人揃って頭を下げた。 「今回見習いではありますが、私の優秀な助手を同行させていただきました。御了承下さい。白椿です。  お話しは承知しました。ご主人の事ですね? では、もう少しだけお話しを聞かせて下さい」 「五年前に主人が亡くなってから色々生活が変わりましてね。娘もアパート暮らしを始めたのでこの屋敷には近寄らなくなってしまいまして。好きな人が出来たとかで。  何年か平穏な日が続きましたが、ある時病院から娘が入院したと連絡がありまして驚きました。命に別状無いと言われて安堵しておりましたら、子供が産めない状態だと。  私は泣きましたよ。この身を代わってあげたいと泣きました。でも、それでもきっと生きていられたのは主人が助けてくれたのかなと思いました」  春江さんが声を震わせながら話しをすると、白椿も同情し鼻をすすりだした。  俺は小声で注意を促す。 「感情に吞まれてはだめだよ」 「はい」  今度はご主人の亡くなり方を話し出した。 「主人はとても優しい人でした。まだ還暦を迎えたばかりで、これからだって時に事故に遭ったんです。主人は孫が抱けることを楽しみにしていました」  奥の部屋でご主人が様子を伺っているのが分かった。確かにご主人はまだこの屋敷にいる。成仏していないのは明白だ。  何かを心配して成仏出来てないのだと思った。そして成仏出来ない理由が他にもあった。  それは恨みだ。
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