三章

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 昼前に春江さん宅を出発した。 「白椿、お腹空いたね」 「そうですね」  車に乗ってしばらく走る。  そしてまた白椿の質問タイムが始まる。 「先生聞いてもいいですか?」 「いいよ」 「どうして日高様が相談に来たこととその状況を春江さんにお伝えしなかったんですか? 私は悔しくてたまりません」 「そうだね。白椿の気持はわかるよ、俺も同じ気持だからね。でも、これは春ヶ野家の問題であって、俺達の感情をのせてはいけないんだ。相談者の希望に添う、求められた物を提供する。それが俺等の仕事。  悪者を掴まえるのもそれを裁くのも、ちゃんと専門職がいるだろ? それと同じなんだよ」 「では、日高様が謝罪をしないのはそれでいいんですか?」 「通り的には良くないけど、それを強制させる力は俺達には無いんだよ」 「では、化け猫ちゃんはどうなるんですか?」 「どうなるかはなってみないとわからない。俺達がそこまで介入することじゃないからね。それに、この先の事を善意でやったとしても、それはボランティアであって仕事ではない。それに余計なお世話と言われてしまえばそれまでだ」 「それはわかりますけど」  白椿は納得がいっていない。 「お前の気持は良くわかっているよ。全てを丸く納めたいし皆には幸せになってもらいたい。でもこれは仕事だから。わかってくれるね?」  しばらく車を走らせると見慣れたファミレスに到着。大手チェーン店なら当たり外れも無いだろう。そう思い駐車場に車を止める。  入り口を入って直ぐに気付いた。  居るな、アイツがいる。  店内の全貌が見える場所まで来るとそれは確認出来た。 「まずいな」  そう思い反転する俺。後から続いてきた白椿にぶつかり抱きしめる格好になった。 「やっぱり焼き肉が食べたいな」  抱かれた瞬間、困った顔をしていたが、焼き肉のフレーズを聞くとにっこり笑った。  それに、こんな光景を白椿に見せるわけにはいかない。  窓際の席に日高と女性がいた。テーブル脇には化け猫が座りこちらを見ている。その体長は二倍近くに膨れ上がっていた。  これは、日高が呑まれるのは時間の問題だな。残念ながら今の俺にはどうすることも出来ない。  俺の所に来た足で、春江さんの娘さんに会いに行っていたらこんな事にはならなかったのに、と相手の悔いを代弁してみるがそんな事は日高からしてみれば大きなお世話ってことだ。  そんな訳で俺達のランチは焼き肉に変更となった。
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