一章

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「こんにちは、日高です」  午後になると予約時刻丁度に相談者が声を掛けてきた。紺色のスーツを着た日高だ。白椿が中へと案内をする。  玄関を入って右手の部屋が仕事場になる。来客にお願いしているのは、部屋に入る前に手の平に塗香をひとつまみ持たせ擦り合わせる様にしてもらっている。自身のお清めのためだ。それらを白椿が案内してから入室する。  テーブルを挟み俺の前へ立つ日高は、軽く一礼すると椅子に座った。 「日高トオルです。よろしくお願いします」  この部屋に入ってから、明らかに怯えている様子が見て取れる。どうやら膝がガクガクしていて、その振動が体中を波紋のように伝わって収まる気配が無い。  白椿がハーブティーを二人の前に置く。  良く分かっているじゃないか。相談者に合わせてリラックスの為のハーブティーだね。 「先ずは一口どうぞ。落ち着きますよ」  俺がそう声を掛けると震える声で答えた。 「ありがとうございます」  そう言って二人でティーカップを持ち上げた。日高はまだ体が震えていて上手く飲むことが出来ない。  白檀のインセンスを焚くように白椿に指示をした。それをサイドテーブルに置くと、壁に寄せた机に白椿も待機する。  ふんわり漂う香りは心を落ち着かせてくれる。線香と違って香り重視なインセンスは、この状況下では無難な所だろう。  真っ直ぐと静かに上がる煙。無風を表す。そして高く上がった煙は後者に押しのけられて渦を巻く。  そしてその静寂を突き破るようにソレは来た。 「現れたな」  一瞬のフラッシュと共に目の前を何かが横切る。スパッと煙のパターンが崩され、日高の背後に隠れたのが分かった。  俺と白椿に緊張が走る。  俺は印を結んでその正体が顔を出すのを待つ。
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