三章

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 食事の席で、肉のいい香りに巻かれながら仕事の話をする。大きい排気の音がその会話を少しだけ邪魔をする。 「先生と焼き肉なんて初めですですね。急にどうされてんですか?」 「いや、何となく焼き肉もいいかなぁって思って」  白椿が肉を丁度良い具合に焼いてくれる。俺の好みも知っていて、何不自由ない食事だ。 「先生? 聞いてもいいですか?」 「どうぞ」 「春江さんの件、そのままで大丈夫ですか?」 「そうね、大丈夫だと思うよ。娘さんも体力が回復したら春江さんの所に戻るだろうから。そしたら真次さんも安心してあの世へ行ける」 「そうだと良いですけど」 「白椿は何か気になることでもあるのか?」  俺は箸を持った手で頭を掻く。 「化け猫ちゃんはどうなるんですか?」 「いずれ落ち着くよ。大丈夫」  また肉を食べ始める。白椿はまだ何か疑問があるようだった。 「それと先生?」 「何ですか?」 「いつも小まめにお洗濯してますが、パジャマは要らないですか?」  ぎこちない雰囲気が流れる。ひたすら肉がプスプスと焼ける。 「要るよ。要りますよ。だからあれは」 「無理しないでいいですよ。全裸で寝てるなんて人には言えませんよね」 「だからあれは違うんだって」 「いや、大丈夫ですから」 「だからあれは霊障だから」 「へ?」  気が付けば周りの客は俺達の事を見ていた。  小さく頭を下げると食事に戻った。 「霊障ってどう言う意味ですか?」 「あの時はなかなか寝付けなくて。春江さんの長男の話があったろ? 長男が俺にアクセスしてきてたんだよ」 「長男さんが?」 「そう、伝えて欲しいって。その時に火事で熱くてってその時の心情まで送ってきたんだよ。だから俺は熱くて服を脱いだ」 「そんな事があったんですね」 「次にくる相談者の事は大体わかるんだよ。だからなるべく考えないようにしてる。でもさすがに子供は無理だったかな」 「先生、ごめんなさい。何も知らなくて」 「良いんだよ、それも経験。俺もうつ伏せに寝てたから良かったけど」  白椿はカッと赤くなった。  それから二人で黙々と肉を食べた。  自宅に戻ると今日の書類制作と次の日の支度をする。が、先ずは大和との戯れの時間だ。  中庭へ出ると早速大和が駆け寄ってくる。 「大和ぉ!」  尻尾が千切れそうな振り方は今日も健在だな。  そこへ元気なく白椿がやって来た。 「先生」 「なに?」 「先生、私は先生の力になれているのでしょうか?」 「急にどうしたの?」  白椿がそれまでの経緯を話し始めるが、俺は大和に舐められっぱなしで話しに参加できていないでいる。押し倒されてひたすら舐められてもみくしゃな俺。  それを見た白椿はクスッと笑う。 「元気になった?」 「はい」 「俺等は、この世界で一般には見えない物と戦うんだ。霊も見えない神も見えない。でも愛は見えなくても幸せになれるんだ。面白いでしょ?   数学みたいな理屈は要らないんだよ。感じた物を信じなさい。お前のことは俺が守るから心配するな」
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