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「オレが失敗した訳じゃないのに、何でオレが責任を取らなきゃいけないんだよ。納得が行かなくて上司に言ったら、それは仕方がないって言われたんだ、おかしくないか? オレがやったんじゃないんだよ」
要は部下の失敗なのに自分が頭を下げるのが気に入らない、と言うことだ。中間管理職とはそう言うものではないのだろうか。そんなんでよくここまで来たもんだなぁ、と感心してしまう。
では逆に自分が新人の頃、上司が代わって何度も頭を下げてくれたのではないか? そんな恩を部下に返すのが縦社会の習わしなのでは?
ヒートアップした新奥は、とにかく呪い殺せとしか言って来ない。単純な考え方が堂々巡りをしている。
そこへ白椿が緑茶を持ってきた。新奥の前に置くと、とんでもない事を言い出した。
「オレは御茶なんか飲まないんだよね。お姉さん、違う飲み物持ってきてくれる?」
ここは飲み屋ではない、飲み物のオーダーをしたのはコイツが初めてだ。
白椿は俺を見て眉をひそめる。
「私の弟子が気が利かなくて申し訳ない。
では白椿、棚の一番右にあるグラスでお持ちして」
白椿は驚いていたが、俺がニッコリ笑うと納得した様子でそれを取りに行った。
「殺したい人が何人居るかは知らないが、俺が誰かを呪ったらお前も呪われるぞ? それでも良ければお前の言う通りにしよう」
「は? 何だよそれ。それじゃ意味ないんだよ。何でオレが悪者になるの?」
「じゃぁ俺が実行者で、お前が首謀者って事だな。意味分かるか?」
「何だ? 訳のわからない事ばっか言ってんじゃねぇよ」
この男はこんなレベルの人間だ。
この世の中、話の通じない奴ほど厄介な物はない。
「お待たせしました」
新奥の前にあった緑茶とショットグラスを差し替えた。
実は、そのショットグラスには水が入っているだけだった。俺はそれが出される前にある呪文を唱えておいた。
「おっ、いいねぇ。こんな酒が出てくるなんて」
新奥はそれを飲み干しカーッと一声すると、満足そうにグラスを置く。
「ジンか。中々面白いじゃないか」
「酒は好きか? 今度はツーフィンガーだ」
「いいねぇ、じゃぁもらおうか」
白椿が水を継ぎ足す。
そしてそれを一瞬で飲み干す。
「くぅー、喉が灼けるぅ」
「で、お前がここに来た理由は何だ?」
「それは、それはなぁ」
新奥は言葉を詰まらす。何故ならその周りには見覚えのある人物や動物、その他諸々の影がジッと新奥の事を見降ろしているからだ。それは揺らめきながら笑いながら新奥を見ていた。
新奥に恨みを持つ者が大集合したって訳だ。
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