四章

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「それで、お前がここに来た理由は何だ?」  新奥はそこから逃げることも立ち上がることも出来ずに淡々していた。  総勢十個はくだらないその数は、一斉に新奥を見下ろす。その影は足元から伸びて頭上で一つになり、新奥を中心とした小さなドームを作った。 「な、何だよこれは!」  この黒い影は新奥が今までに恨みを抱かせた相手だ。この影達は死んではいないようだ。だが、嫌な思いは忘れてはいない。 背の低い男性の影。これは同級生で新奥にいじめを受けていた。色黒で小さかったのでクロブタと呼ばれていた。 始めはいじめグループの仲間だったが、風邪で休んだ次の日からいじめのターゲットに変わった。 小さな女性の影は、これもいじめのターゲットだ。日本人離れした風貌が身なりが汚いと決めつけた理由で、触らないかわりに酷い事を言っていじめていた。口からのストレス解消だ。 背の高い女性は先の日本人離れした風貌の友達で、一緒にいるからお前も汚いと決めつけて嫌がらせをしていた。 細い男性の影。これは部活の後輩で、新奥に毎日ストレス解消のサンドバッグにされていた。殴りすぎて臓器損傷で入院。それでも学校側はいじめは無かったと言い張り、大好きなサッカーを辞めることになった。  まだまだ他にも新奥に対して恨み辛みを持つ影はいる。  実はこの影の正体は『想い』だ。いまだに忘れられない想いを持ったまま生きている。  生き霊の様に相手が飛ばしたわけではない。各自が持ち合わせている悔しい想いを今回は集めてみた。 「何だよ、これ、何なんだよ!」  俺はしばらくの間、この状況をほったらかしてみた。この影達に思いの丈をぶつけさせてみることにした。  一つづつ影が新奥に覆い被さりながら語りかける。 「ダイスキナサッカーデキナクナッタ、オマエノセイダ」  そうね、憂さ晴らしのサンドバッグは痛かったね。学校側もいじめを認めなかったのは良くないよね。でも、誰かに助けを求めることも出来たんじゃないかな。勇気を持って話すことが出来る力を身につけたらもっと良かったんだと思うよ。 「ワタシハハーフ、キタナクナイ」  君は汚くなんかないよ、日本とフィリピンのハーフなんだね。可愛い女の子じゃないか。好きの裏返しって知ってる? 男の子は好きな子には意地悪をするもんなんだよ。 「オレハブタジャナイ」  そう、豚ではないよ人間だよ。では何でアイツは君のことを豚って言ったんだろう。それはね、昔アイツが呼ばれていたあだ名がブタだったからだよ。その腹いせだったんじゃないかな。違うなら違うって言ったほうが良かったんじゃないかな。
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