四章

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 生きていたら良いことあるよ。でも必ずこの時の感情は思い出す。そして辛くなったらどうやって乗り越えればいいのか? そんな切なさだけが未遂を苦しめる。  俺はこの男が何をしてきたのかだいたい把握した。が、俺の仕事は新奥に対しての制裁ではない。相談者の要求は指定された人間を呪い殺せ、だ。  では新奥の望む通りにしてやろうじゃないか。その前に、今現状を見て感じてもらおうと過去のM子と入れ替えてやることにした。  時は、風鳴りの響くビルの屋上。自殺をしようとしているM子と入れ替えた。  新奥は急に目の前に現れた暗闇と風の音に驚き逃げようとする。が、体は自殺をしようとしているM子の物だから新奥の意思では動かせない。 「たすけて」  そう言ってみるも声にならない。  不安定に吹いてくる風は、ビルの縁に立つ新奥を揺さぶり続ける。  M子の脳内は、死ぬ間際の辛かったことや楽しかった思い出を回想する。それを同期している新奥もその回想を見ている。 小学校の頃は楽しかったな。あの頃の新奥君は優しくて、行動班で協力してクリアする課題が本当に楽しかった。 いつからか私がいじめられる事になったのは、どんな理由なのか原因なのかはわからない。ただ、私は仲良くなった友達が大切だっただけなのに。 我慢して見ない振りして、気が付くと周りには誰もいなくなった。私一人だけの学校生活。 そしていじめ。 机にゴミ、椅子にチョークの粉。 掃除の時間になると、みんなが私に掃除用具を持たせに来る。 配布物をもらえない。 給食が無い。 上履きを隠される。 ロッカーの私物はいつも無くなる。 教科書をゴミ箱に捨てられる。 最後に言われた言葉は、死ねば良いのに。 だから私はみんなのために死にます。 そして新奥君、アナタを呪います。  回想を見た新奥は体の震えが止まらなくなった。たすけて、たすけてと口を動かすが声にならない。  風に押されて体が揺れる。その体は落ちないようにと必死にバランスを取る。  するとM子の体から幽体離脱のようにM子だけが抜け出した。  M子の揺れる体を直ぐ側で眺めてニヤける幽体M子。  ゆっくりと振り向いた新奥は幽体M子を見てビクッとなった。 「シンデシマエ」  幽体M子がそう言うと、ゆっくりと近いてくる。新奥は恐怖のあまり気を失いそうになる。  そして幽体M子は縁に立つ自分の体を強く押した。  新奥の目にはスローモーションの様に周りの景色が流れていく。後から前へ、光から闇へと落ちる。
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