四章

6/8

22人が本棚に入れています
本棚に追加
/74ページ
「うわぁーっ!」  俺の前で眉間にシワを寄せながらもうろうとしていた新奥が叫びながら椅子から落ちた。そしてその突き落とされた衝撃で我にかえった様だった。  さっきまでの回想と、今の現実が理解できていないらしい。死んだ目をして床に転がっている。  俺はそろそろ終演時間になることを本人に伝えた。 「何か他に聞きたい事はあるか?」  何も言わず首を横に振る新奥。いまだに立ち上がる事が出来ないでいる。 「どうした? 椅子に座れよ」  この辺で今の自分の態勢やら夢を見ていたことやらを理解したのか、モソモソ、キョロキョロしながら椅子に這い上がり震えながら質問をしてきた。 「今のは何なんですか?」  新奥から始めて聞く敬語だ。 「今までお前がしてきた悪行の被害者だ。  お前のしてきたことで、ここまで深刻に悩んで自殺を考えていた人間がいたと言うことに気付いてもらえたかな?」 「はい」 「そう言えば、俺もお前の悪行のターゲットだったことを思い出したよ」 「えっ」 「さて。では時間も残り少ないので本題に移ろうか。  で、誰を呪い殺せば良いのかな?」  新奥は細かく首を振ると、背もたれいっぱいに寄り掛かり怯えた。バランスを崩すと椅子から転げ落ち、そのまま土下座をして俺に謝ってきた。 「ごめんなさい、ごめんなさい。もうしません、絶対にしませんから許して下さい」  今更そんな事を言われても俺の過去は戻ってこないし書き換えることも出来ない。そんな重大な事を仕出かしたのに、ごめんなさいで済むとでも思っているのか?  だがその一方で、影達は今のショーを見て満足だったのか次々と消えていった。 「では私から伝えよう。  これまでのことを問うことはしない。そして責めることもしない。その代わりに、今までしてきた悪行を悔い改め、今の現状の人々に感謝しなさい。ありがとうと言える心を持ちなさい。  自分がここまで成長出来たのは、己だけの力だけでは無いぞ。それを肝に銘じて精進するが良い」  こんな難しい言葉を並べてもわかってはもらえないと思ったが予感は的中、コントの様な質問が返ってきた。 「あの、精進ってどうすればいいですか?」 「仕事でも趣味でも何か頑張れることを見付けなさい。その中で常識や礼儀を身に着けて、世に出ても恥ずかしくない人間になりなさい」
/74ページ

最初のコメントを投稿しよう!

22人が本棚に入れています
本棚に追加