四章

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 新奥は随分と反省した様子で帰って行った。これで良い、これで良いんだと自分に言い聞かせてその日の仕事を終了した。  あと誰にも言ってないが、ショットグラスの呪文は解いていない。まぁ、心を入れ替えたら本人の知らないうちに解除されるだろう。  また悪行が始まったら孫悟空の緊箍児(きんこじ)のように締め付けてやる呪文だ。俺が締め付けるわけじゃない、嫌な思いをした影達がお仕置きをするってわけだ。  普通の人ならくしゃみをしただけで解かれてしまうくらいの優しい呪文だから大丈夫だろう。  本当のことを言うと、新奥に対しては更生してもらいたいとか幸せになってもらいたいなどとは思っていない。ただ、コイツのせいで不幸な人が出て欲しくないので、そのような施術をしたまで。  カスはカス、クズはクズ。でもそんな奴でも立ち直るチャンスはあっても良いのかとは思う。  それは、本人が立ち直りたいと願わなければ生まれないチャンス。  大切なタイミングを逃してもらいたくは無い。  本日の夕飯は茸の炊き込み御飯。お吸い物はさっぱり系でそれに付く漬物は塩っ気があって、それだけでもう俺は満足。その上に杏仁豆腐まで付いてくるなんて、仕事をがんばった甲斐があったと言うもんだ。 「今日の杏仁豆腐は、ご近所様からのいただき物です」  俺の心をしっかりと読んでいる白椿だった。  白椿は本当にしっかりと働いてくれて、家事も助手も何申し分ない。そろそろ助手を卒業させても良いのではないかと考えていた。 「白椿、片付けが終わったら仕事部屋に行こう」 「はい」  その顔は誇らしげだった。俺の言いたいことは既にわかっていたのだろう。  本格的に携わると言うことは、自分の身にも危険が及ぶと言うこと。すなわち死をも覚悟しなければならない。  相談者には大概憑きものが居る。それは助けてもらいたくて誰かに取り憑きその足を使って俺の所へ来る。もしくは促されて来る。  俺達は、その人に入り込み事を解決するかわりに、それ相応のリスクを負わなければならない。それは、自分の命だったり寿命だったり、最愛の人たったり。  だからこの職種は孤独が多い。家族を持たなかったり持てなかったり、一生独身なんてザラだ。もしかしたら俺もずっと独り者で、愛し愛されはないかも知れないな。そんな寂しい老後を想像して気分が滅入るマイナーな俺。
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