22人が本棚に入れています
本棚に追加
/74ページ
五章
「白椿ちょっと来て」
中庭で大和と戯れていた時に気付いた。
日の当たる庭の端で花が咲いていた。
「これ、何ていうの?」
一緒にしゃがみ込むと二人で考えた。大和はその花をクンクンするとくしゃみをする。
「これは多分、芝桜だと思います」
「芝桜? サクラが地面に咲くの?」
「先生、桜は木に咲くだけじゃないんですよ。こうやって地面を這いながら花を咲かせて、来年また領地を増やして咲くんです。
どこからか飛んできんですかね。芝桜は太陽が大好きだからここに定着したんでしょうね」
「へぇ、そうなんだ。可愛いね」
「そうですね」
二人並んで見下げる花は、大きく葉を開き花びらを揺らしていた。
成長ってあっという間だなぁ。白椿がここへ来てどれくらい経つだろうか。独り立ちも近いと思うと寂しくなるなぁ。そんな事を考えながら芝桜を眺める。
ふと隣を見ると、白椿が俺を見ていた。
「どうした?」
「いや、何でもないです」
そう言って白椿は目を逸らせた。次の瞬間、大和が勢い良く俺と白椿の間に割って入ってくると、尻尾をフリフリしながらベロベロ舐められた。
「なんだよ大和ぉ、ヤキモチ妬いてるのかぁ? それとも嫉妬してるのかぁ?」
「先生止めて下さい!」
なぜか俺は白椿にそう怒られた。女心は分からない。
午後になって相談者がやって来た。
この相談者は心霊や霊障を信じて止まない人で、何かあるといつもここへ来て相談をして帰る。
今回は定期訪問ではあるが、少し様子が違った。
「今日は龍河先生じゃないんですね。でもお話しを聞いてくれるんだったら誰でも構いません」
そう言うと岩塚はベラベラと喋り出した。
「私、何か憑いてませんか? 絶対に憑いてるんです。体調が悪くて微熱があったり、体がダルいんです。それに見えるんです、今回は見えるんですよ」
この相談者は毎回おかしな事を言ってくる。
前回は、憑かれたから除霊しろと言ってきた。結局ただの風邪で調子が悪かっただけだった。
その前は、霊が追い掛けてくる気がすると言って相談にきた。
何でもかんでも霊障にするな。ラーメン食べて鼻水が出たから風邪を引いた、と言うレベルと一緒じゃないか。
でも、今回ばかりはそうでもないようだった。
白椿は岩塚の話を親身になって聞く。俺はその後で目を瞑りながら話を聞く。
と、急に岩塚から出てきたその本性。これはマズいと思い白椿に声を掛けようと立ち上がったが、遅かった。
白椿の意識が四次元へと吸い込まれていく。俺は白椿を掴まえたが戻ることが出来ず、一緒に吸い込まれた。
最初のコメントを投稿しよう!