五章

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五章

「白椿ちょっと来て」  中庭で大和と戯れていた時に気付いた。  日の当たる庭の端で花が咲いていた。 「これ、何ていうの?」  一緒にしゃがみ込むと二人で考えた。大和はその花をクンクンするとくしゃみをする。 「これは多分、芝桜だと思います」 「芝桜? サクラが地面に咲くの?」 「先生、桜は木に咲くだけじゃないんですよ。こうやって地面を這いながら花を咲かせて、来年また領地を増やして咲くんです。  どこからか飛んできんですかね。芝桜は太陽が大好きだからここに定着したんでしょうね」 「へぇ、そうなんだ。可愛いね」 「そうですね」  二人並んで見下げる花は、大きく葉を開き花びらを揺らしていた。  成長ってあっという間だなぁ。白椿がここへ来てどれくらい経つだろうか。独り立ちも近いと思うと寂しくなるなぁ。そんな事を考えながら芝桜を眺める。  ふと隣を見ると、白椿が俺を見ていた。 「どうした?」 「いや、何でもないです」  そう言って白椿は目を逸らせた。次の瞬間、大和が勢い良く俺と白椿の間に割って入ってくると、尻尾をフリフリしながらベロベロ舐められた。 「なんだよ大和ぉ、ヤキモチ妬いてるのかぁ? それとも嫉妬してるのかぁ?」  「先生止めて下さい!」  なぜか俺は白椿にそう怒られた。女心は分からない。  午後になって相談者がやって来た。  この相談者は心霊や霊障を信じて止まない人で、何かあるといつもここへ来て相談をして帰る。  今回は定期訪問ではあるが、少し様子が違った。 「今日は龍河先生じゃないんですね。でもお話しを聞いてくれるんだったら誰でも構いません」  そう言うと岩塚はベラベラと喋り出した。 「私、何か憑いてませんか? 絶対に憑いてるんです。体調が悪くて微熱があったり、体がダルいんです。それに見えるんです、今回は見えるんですよ」  この相談者は毎回おかしな事を言ってくる。  前回は、憑かれたから除霊しろと言ってきた。結局ただの風邪で調子が悪かっただけだった。  その前は、霊が追い掛けてくる気がすると言って相談にきた。  何でもかんでも霊障にするな。ラーメン食べて鼻水が出たから風邪を引いた、と言うレベルと一緒じゃないか。  でも、今回ばかりはそうでもないようだった。  白椿は岩塚の話を親身になって聞く。俺はその後で目を瞑りながら話を聞く。  と、急に岩塚から出てきたその本性。これはマズいと思い白椿に声を掛けようと立ち上がったが、遅かった。  白椿の意識が四次元へと吸い込まれていく。俺は白椿を掴まえたが戻ることが出来ず、一緒に吸い込まれた。
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