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ずっと耳鳴りがするこの場所はその本性が作り出した空間で、俺等からしたら完全なアウェイだ。今回は白椿もここにいる、現世で助けてくれる人はいない。
「センセイ、ダイジョウブデスカ?」
白椿がそう言うが、明らかに本人ではない。本性め、白椿に寄生したな?
「センセイ、ダイジョウブデスカ?」
俺は印を結びながら答えた。
「お前は誰か」
「センセイ、ダイジョウブデスカ?」
「お前は白椿ではないな? 俺は、お前は誰か? と聞いている」
白椿の体に寄生した本性はまだシラを切るつもりでいる。
この世界はかなり淀んでいて、強い怨みの念を感じる。誰に対しての念なのか、いつの事なのかはまだ分からない。
そして白椿の優しい性格が徒となり、相談者の話を聞き入ってしまったところを呑まれた。
呑まれてしまったことは仕方がない。無事に現世へ戻るにはどうすればいいのか考えなければならない。さぁどうする俺。
攻撃して消すのは容易いことだ。だが、今攻撃したら白椿まで傷付いてしまう。多分その事をわかっていて白椿に寄生したのだろう。頭を使ってきたな。
「白椿に寄生している物よ答えろ。お前は誰だか」
しばらく間を置いて喋り出した。
「オレハレイノウシャノタマシイヲクウ」
これは厄介な奴が来たな。
「なぜ霊能者の魂だけを喰うのだ」
「レイノウシャツヨイ、クッテツヨクナル」
己はもののけか。霊能者を喰ってもお前自体は強くはならんぞ。
「教えてやろう。今お前が寄生してるのは霊能者ではないぞ。喰っても力にはならん」
「ツヨイ、コイツハツヨイ」
白椿はまだそれをコントロール出来ないだけで、俺とは違う別の強い力を持っている。見透かされてたってわけか。
「では聞こう。一人前の霊能者ではなくても良いというのだな?」
「ツヨイタマシイヲクウ」
「その力をコントロール出来ない人間を喰ったらどうなるかわかるか?」
考える頭はあるようでしばらく黙った。でも答えは出なかったようだ。
「そんなに喰いたいのなら俺を喰うが良い」
白椿がゆっくりと別れて二重になり、二人の白椿になった。片方は白っぽく、もう片方はドス黒かった。
「オマエヲクッテ、ソイツモクウ」
黒い白椿が偽物だと直ぐにわかった。なぜなら、あの時、俺を見ていた目をしていたからだ。白い白椿は、芝桜の前で俺を見ていたあの時の目をしていた。本物はこっちだ。
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