五章

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 俺は天に向かって構えを取る。 「出でよ、緑龍」  頭上からのの字を描きながら降りてきた緑龍。それを見た黒い白椿は自分の影を散らばせて消えた。  それでも緑龍は攻撃態勢にある。どうやらソイツはまだ近くに潜んでいるらしい。  俺は、力の抜けた白椿を抱きかかえた。 「大丈夫か?」 「はい。先生、ごめんなさい」  もうろうとする白椿。辺りを警戒しなかがら現世へ戻る呪文を唱える。  俺はここへ来るときに風穴を開けておいた。その風穴もそろそろ限界で閉じ始めている。早くここから出なければ。  俺は白椿を抱く。その俺達を中心に緑龍が風とチリを巻き上げながらとぐろを巻いて結界をつくる。  最後の呪文を唱え終わり印を切ると、強い耳鳴りと気圧で体が締め上げられる。  俺は白椿をきつく抱いた。白椿も俺にしがみ付く。後は緑龍次第だ。 「頼む、俺達を現世へ連れて行ってくれ」  緑龍が渦を巻きなから俺達を動かし始める。体、意識、記憶、全てを動かす。  耳鳴りと眩しい光が俺達を襲う。意識が薄れ始め、その力で息が止まる。 「頑張れよ、白椿」  それらから解放されると現世に戻る。  そこは、二人が呑まれる直前の現世だった。  俺は直ぐさま九字を切り、繫がった意識を全て切ってやった。  白椿と岩塚は不思議そうに俺を見た。 「龍河先生、急にどうしたんですか?」  岩塚がそう声を掛ける。どうやら大変な思いをしたのは俺だけだった様だ。 「邪魔してすみません」  岩塚は一通り喋り終わると、気が済んだのか何事も無かったように帰って行った。  白椿は納得がいっていないようで渋い顔をしていた。お見送りをしてから仕事部屋に戻ると反省会が始まる。 「今日は私がアシスタントだから、飲み物を淹れてあげましょう。白椿先生、何がいいですか?」 「何でも良いです」  力無さげに返ってきた言葉。  明らかにしょげている。  俺はティーカップにパックを入れて、お湯を注いだだけの紅茶を出した。 「はいどうぞ。龍河助手が淹れた、紅茶パックにお湯をかけただけの美味しい紅茶です。  色が出たら紅茶だと思っているので、茶葉がジャンピングとかどうでもいい奴ですが、どうぞ召し上がれ」  それを聞いた白椿が、やっと笑った。 「先生、そんなんだから美味しく入れられないんですよ」  いつも俺が座る椅子に白椿がいる。俺は白椿の定位置の助手用席に座った。白椿は真面目な顔をして俺に向き直る。 「先生、申し訳ございませんでした」  下げた頭を上げることなく謝った。  今までの出来事は把握していたようだ。俺が助けに行ったことも、緑龍を召喚したことも。
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