五章

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「残念だけど、大丈夫ですとも気にするなとも言えない。ここへ帰って来れたから良かったけど、呑まれたままなら今の俺達はない」 「はい、わかってます」 「独り立ちはまだ早かったかな。  厳しい言い方かも知れないが、もう少し修行をしてもらおうかと思う。大切な弟子だから立派にして世に送り出してあげたい。  白椿も不安だと言っていたよね。その辺は俺も見誤ったのかも知れない。  今回の件については、相談者に呑まれてしまったこと、憑きものが強かったと言うこと。マイナス点が多すぎた。  ラッキーだったのは風穴から緑龍が入り込めたこと。閉じていたら助からなかったかも知れないね」  白椿は下を向いたまましくしく泣いた。 「いつもの相談者だからと、ソイツを連れてきたことに気付かなかった俺もいけなかった。要因が沢山あったのに気付けなかったのは俺のせいだ。  ファクター。大きな要因も小さな要因も、俺達には害にしかならない。だから解決するか、潰さなければならないのがファクター」 「ファクター。難しいですね」  白椿にボックスティッシュを渡した。 「私、そんなに泣きませんから」 「明日はオフだから大和と散歩に行こう。お弁当を作ってもらってもいいかな?」  白椿はニッコリして頷いた。  独り立ちを急いだのは白椿の為でもあった。可愛い娘を預かっている以上何かあったら困るのと、親御さんに早く返してあげて安心してもらいたかったと言うのが理由だ。  白椿の力は強い。立派な施術師になれると思っている。だが本人はまだその力を上手くコントロール出来ていない。間違って暴走する前に方向性を定めてやりたかった。  世の中には本来の力に気付いて暴走する施術師がいる。何でも出来る力に酔いしれて悪に手を染めたり、黒魔術的な事に力を使い戻って来れなくなる人間もいる。  白椿に限ってはそんな事は無いだろうが、善意の人間でいてもらいたい。人を救うためにその力を使ってもらいたい。  大切な弟子だから。卒業するときに、ありがとうございましたと言ってもらいたいし、こちらこそありがとうと返してあげたい。そんな思いが先走ってしまった結果となった。  その日は疲れてしまったのでデリバリーで済ませた。体に悪そうな脂が浮いている。さすがジャンクフードだ。とは言っても嫌いでは無いが。 「今日は早く休もうか」 「はい」  明日は久し振りの弁当持ちの散歩だ。大和と沢山遊んで沢山走って気晴らしをしようと思った。
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