五章

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 次の日、俺は中庭に出て唖然とした。昨日まで咲いていた芝桜の花びらが無くなっていた。 「あれ? ひとつもない。どこだ?」  大和が食べてしまった感じはない。大和がムシャムシャしたならば葉っぱも食べられているはず。だが花びらだけが無くなっている所を見ると、大和の仕業ではないと思われる。  枯れたのか? だとしたら枯れた花びらが残っているはず。では風で飛んだのか? 辺りを見渡すが飛んだ形跡もない。中庭は吹きだまりになっているので、外まで飛ぶには竜巻でも起こらない限り無理だ。  そして嫌な予感しかしない。昨日から胸騒ぎがしてならない。そしていつもなら俺を見ると飛び掛かってくる大和が静かだ。大人しすぎる。 「大和?」  今日の大和は元気が無い。と言うより何か警戒しているようにも見える。 「やはりまだ残っていたか」  そう思うしかなかった。この敷地内に昨日の本性が潜んでいるのではないかと見た。何をしたいのか、何を望むのか分からない限り対処のしようがない。。そして何が原因でどうすれば良いのかすら分からない。  その本性はこの屋敷で散らばったままになっているのか意識が弱い。岩塚に紛れてここへ来たときも、意識を分散させて侵入したんだと思った。  為て遣られたと今更後悔しても遅い。何でもっと早く気付かなかったんだ。 「あ、」  昔、お師匠様に聞いたことがある。その人の大切な物を食う輩がいると。  ソイツは強い物だけを喰う。そして己が強くなるのだと信じて霊能力者だけを喰うという化け物。確か名前は、 「ヤマト」  それを思い出した瞬間、鳥肌が立った。  大和とヤマトは全くの別物。なんの心配もないが、類似の名前を付けてしまった事に対して、なんだか申し訳ないと言う気持が入り交じって切ない気持になってしまった。  まさか大和が喰われるのか?  考えれば考えるほど自分で不安を煽ってしまう。 「ダメだ、こんなんじゃ」  俺は膝を叩いて立ち上がり気合いを入れ直す。大和は俺の相棒だ、俺が守ってやる。喰われる前に始末してやる。  白椿にその旨を説明して散歩はキャンセルにし、その代わりに敷地内の清掃をすることにした。
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