六章

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 相談者の名前は日向里穂(ひなたりほ)。三人の子供を持つ専業主婦だ。  ご主人は三年ほど前から単身赴任で、ほとんど育児には参加できていない。母親一人で三人の年子を育てるのはかなりの体力がいるだろう。それにストレスも溜まるだろうし、子供に当たったりもするだろう。そんな時に紹介されてここに足を運んで来てくれたのが里穂だ。  里穂は愛嬌も良く近所の人からも可愛いがられていて、元気な頑張り屋さんなタイプに見られている。だが家庭内では育児ストレスを抱え身も心もボロボロになっていた。  子供達が可愛いんです。でもイライラして当たってしまうんです。  初めて来たときはそう言ってメソメソしていた。お風呂の水を出してビショビショにしたり掃除機を振り回して鉢を割ったり、携帯電話をレンジに入れてチンをしてくれたんだそう。  でもそれって、お母さんの手伝いをしようとしたんじゃないかな? とかく女の子はお母さんの真似っこをするよね。自分が小さい頃もそうだったんじゃないかな。  自分が子供と同じだったら? って置き換えてみたらどうかな。  そうアドバイスさせてもらった。それから、本人の性格やら守護霊やらを見て気分も軽くなって帰ってもらった。お母さんって大変だなぁ。  そして二回目の今日、ずっと前から同じ夢を見るという内容の相談に来た。 「ここ二年くらい同じ夢を見るんです。二年は長いですよね。でも、この夢は小さい頃にも見ているんです」 「その内容を教えてもらってもいいですか?」 「はい」  幼い頃に見た夢はこんな感じだ。  保育園に通う里穂は、大好きだったお祖父さんが亡くなってしばらくしてから怖い夢を度々見るのだという。  まだ元気だった頃に、お祖父さんが乗っていた自転車が独りでにカタカタと金属音を鳴らしながら遅い速度でヨロヨロと前進する。  砂利道を進むその自転車は、ジャリッジャリッと音を立てながら庭で遊ぶ里穂目がけて進んでくる。怖くなった里穂は物陰に隠れて自転車が通り過ぎるのを待った。  その自転車のカゴには、いつもゴミ箱が入っているのだと言う。自転車がヨロヨロする度にそのゴミ箱がカタカタと音を立てる。  小さいながらに記憶していたのが、お祖父さんの病室にそのゴミ箱があったんだとか。  その辺までを小さい頃に見ていた。怖いといった感覚しかなく、夢を見てはいつも泣いていたと言う。
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