六章

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 そして今になってその続きを見る。  追い掛けてくる自転車から逃げて物陰に隠れる。息を殺して潜む里穂。  ジャリッジャリッ。  恐怖で動けなくなった里穂は震えながら自転車が通り過ぎるのを待つ。それが目の前まで来るとピタリと止まる。  ガタンッ。  自転車はハンドルを曲げて里穂を見る。  そこで跳ね上がるようにして目が覚めるのだと言う。 「それは怖いですね」 「いつも同じなんです。見つかってしまって怖くて悲鳴を上げようと息を吸う所で目が覚めるんです」  この夢の中には沢山のイメージがある。俺は、その自転車が何を伝えたいのかを探ることにした。  小さい頃に見た夢と、今見ている夢とで確実に違う所があった。目線だ。今の夢の方が目線がはるかに高い。夢の中の人物も月日が経つにつれて成長しているのがわかる。  そして夢に出てきた自転車は、骨組みのガッチリした昭和レトロ風で当時の様子が伺える。その自転車は色も形も変わりがない。 「自転車はお祖父さんが乗っていた自転車ですか?」 「多分そうだと思います。お祖父さんが乗っていた時の記憶はないのですが、覚えているのは私が三歳位の時で病室で寝たきりの記憶しか無いんです。きっと元気だった頃にあの自転車に乗っていたんじゃないかなと思います」 「ゴミ箱もその病室にあったんですよね?」 「はい。ブルーのゴミ箱に柄があったんですけど、それが同じでした」  色々な夢と話のパーツを組み合わせて形が見えてきた。全てがお祖父さんの物、里穂に対して伝えたい事、ゴミ箱。そうやって色んな事を照らし合わせていくとだいぶ道が開けてくる。 「推測するに、四人目のお子さんを考えてますか?」 「はい、でもまだ迷っています。こんな状態で四人目を産んだら、子供達に悲しい思いをさせてしまうのではないかと」 「今はまだ妊娠はしてませんね?」 「はい」 「でも大丈夫なんです。それが里穂さんの宿命なんですから。それと、いくつかお伝えしたい事があります。先ずはゴミ箱です」 「ゴミ箱?」 「はい、ゴミ箱は捨てるとか綺麗にするとかの意味合いがあります。でも、今回のゴミ箱は全く違った意味合いです。浄化するとか再生、誕生」 「誕生?」 「はい。生まれ変わると言う意味合いが正しいかと思われます」  里穂は首を傾げた。
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