一章

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「日高さん。今日はどのような事でおいでになられたのですか?」  日高はティーカップを音を立てて置くとシラッと話し始めた。 「最近調子が悪くて、体調も仕事も全てにおいて上手くいかないんです。で、嫁の母親に何か憑いてるんじゃないの? って言われて、今回お邪魔させてもらったって訳です」  その誇らしげな話し方は重役の挨拶のようで、とても裏の顔があるとは思えないと自分の目を疑ってしまう。  素晴らしい演技ですね、俳優さんになれますよ、と褒めてあげたいくらいだ。 「日高さん、奥さんはご健在ですか?」 「はい、元気です。もしかして嫁が原因なんですか?」  さっきの化け猫が送ってきた女性のイメージは奥さんでは無いようだ。とすると、愛人か何かになるのではないかと推測する。  そしてその愛人は、日高の手によって瀕死の状態に追い込まれたと言うことになる。 「いえ、今義母様が何か憑いてるんじゃないの? などと言った様ですが、義母様はそう言った霊が見える体質なのですか?」 「どうでしょうね。実際、頭の回転も悪いですし、金を持っている訳でも無いですし、ボケが始まったのかも知れないですけどね、ハハハ」 「それは良くない言い方ですね。そんな事を言っていると、日高さんも同じ様な事を言われてしまいますよ」 「いやいや、本当の事を言ったまでですから。それに僕の事を悪く言う人なんていませんよぉ」  世の中にはこう言った非常識な人間がいる。でもよく考えてみろ。そう言うお前も他所で言われていることを。自分が言うなら相手も言うという事を。 「日高さん、ご職業は?」 「はい、警備会社で働いています」 「主にどのような?」 「百貨店の夜の見回りや交通整理、万引きを捕まえたこともあります」 「夜の見回りなんて気味が悪いじゃないですか。それに万引き犯を捕まえるだなんて、もう怖い物無しですね」  日高は椅子にふんぞり返って勇者気分を醸し出した。 「所で、奥さんはどこでお知り合いになられたのですか?」  日高は少し躊躇したようにも見えたが、相変わらずの話し方は立派だ。 「嫁は百貨店で事務をしていて、その時に知り合いました。子宝にも恵まれて夫婦仲良く子育てに励んでおります。恥ずかしながら私は愛妻家ですから」  まぁよくもこれだけの嘘が並べられたなぁと感心してしまう。日高が話す内容と平行するように化け猫がイメージを送り続けてくる。それに合わせて俺は透視をしながらその本質を暴く。全て見透かされているとも知らずに。
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