七章

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 度々相談にくる専業主婦の小川中は現実では有り得ない不思議な体験をした。 「子供が拾ってきた石なんですけど、その石が来てからとても不思議な事が起きて怖かったんです」  小川中は少し興奮気味にその話を始めた。事の内容はこうだ。  一ヶ月程前に、お寺で遊んでいた息子が石をお土産に持って帰って来たそう。その石は子供の手にスッポリと収まるくらいの平たい丸い石。囲碁で使う碁石のようで、触り心地も良かったという。 「ママただいま、ママにお土産だよ!」  元気に遊んで帰ってきた息子はその石を小川中に渡した。が、何かが気持ち悪い。受け取ったはいいが、持っていられなくてキッチンで使っている椅子の上に置いてしまったと言う。  夕飯の支度をしていると例の石が気になり振り向く。見られているようで何度も振り向く。  一晩明けて朝になるとバタバタする中、その石が乗っている椅子にぶつかってしまった。すると石が椅子から転げ落ちる。かと思ったら、勢い良く三メートルほど飛んでいった。  は? ちょっと当たっただけなのに、こんなに飛ぶの?  子供に当たらなくて良かったと思いながらまた椅子の上に戻した。  子供が学校へ行った後、しみじみと石を眺めたがやっぱり気持ち悪い。それを手に取ると庭の端に投げた。そのエリアには沢山の石が敷いてあって、紛れてしまえば解らないだろうとそこへ捨ててしまった。  息子が学校から帰って来て、あの石はあるか? と聞かれた小川中は、咄嗟にあるよと嘘を付いた。そして罪悪感に襲われる。  いつもそんな石の事など直ぐに忘れてしまう息子なのに、今回はなぜそこまで執着するのかわからない。  そして次の日の朝、キッチンにその石が戻ってきたことに驚いた。  え? 何でここにあるの?  思わず身震いをする小川中。石が独りでに戻ってきたと思ったが、まさかそんな事あるまいと旦那に聞いた。 「あなた、この石知ってる?」 「あぁ、庭に落ちていたから拾ったよ」  旦那いわく、どうやらポツンと庭に落ちていたらしい。  ポツン? それは無い。沢山の石に紛れていたのに、それだけが抜け出ることが有るわけが無い。  その石が怖くなった小川中。そしてあることを察した。  もしかしたらこの石は私の心を読んでいるのかも知れない。  己の欲を満たそうとしているこの石は、人間を上手く使って動けない己を移動させているのではないかと考えた。
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