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「先生?」
「ん?」
昼食を済ませて午後からの仕事の支度をしているところだった。白椿は自分のサイズに合っていない指輪を持ってきた。
「どうしたの?」
「私のお祖母ちゃんの形見なんです。サイズが合わないので着けることが出来ないんですけど、形見って身に着けていた方が良いんですか?」
俺はそれを受け取ると目線まで上げてじっくりと見る。しっかりとした立爪には大振りのダイヤが付いている。
「お祖母さんの時代にこの指輪はかなりの存在感だったろうね」
「タンスの引き出しに大切にしまっておいたようです」
「お祖母さんの大切な宝物だったんだね。お金に困ったら質屋へ出すようにってお祖父さんから受け取ったらしい。でも大切な指輪だったから、これだけは残したみたいだよ」
「先生そんなことまでわかるんですか?」
「それは褒めてくれているのかな?」
「勿論です!」
白椿の驚いた顔が印象的だった。
物には感情は無いが感情が移ることがある。執着が強いと自身の意識が乗り移る。以前にお師匠様から聞いた、一粒の石の涙の話を紹介しようと思う。
採掘の仕事は成果で賃金が決まる。出来高制の為、時給は発生しない。そんな世界で人生を狂わされてしまった男アレク。
アレクは小さな町で働きながら妻と子どもを養い、細々と生活をする真面目な男。暇な時間があれば採掘場へ行き石を掘る。
手先が器用なアレクからしたら細かい作業は大得意で、そこそこ大きな石をきれいに掘り出す。
その日は一粒の大きなエメラルドの原石を掘り出した。今まで一番下大きなエメラルド。高値で売れることは一目瞭然。だが、その美しさに惚れてしまいなかなか手放すことが出来なかった。
しかし、裕福でなかったアレクは日々の暮らしが苦しくなり、その大きなエメラルドを売ることにした。
「たいしたエメラルドじゃねぇな。ほれよ」
そうやって業者からいつもと同じ小銭を受け取る。
「よく見てくれよ、これは大物だ!」
業者はそのエメラルドを棚の奥にしまい込むとアレクを邪魔だからと追い出した。
業者はその大きなエメラルドが特別な価値があることをわかっていた。その上でいつもの屑石だと言ってアレクを追い返した。
「どうせアイツ等には石の価値なんてわかりゃしねぇ」
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