七章

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 アレクはあの大きなエメラルドの事が忘れられない。そして返して欲しいと業者に言ったが取り合ってもらえない。恋人を失ったような衝撃を受けたアレクは、仕事も採掘もしなくなった。  抜け殻になったアレクは、エメラルドを追い掛けて取り憑いた。  一方、その業者もエメラルドの魅力に取り憑かれ、アレクから買い取った石を手放すことができずに隠し持っていた。  数々の石を見てきた業者は今世紀最大のエメラルドと讃え喜び、夜な夜なそれを眺めては晩酌をしていたが、そのうちに謎の体調不良に悩まされる。  入院して病床代がかさみ、最終的にエメラルドを売る。が、手放した悔しさにアレク同様エメラルドを追いかける。  そうやって何人もの魂が乗り込んだエメラルドはブローチとなって大富豪を襲う。  呪われたエメラルドと言われたその石は、大事を取って保管されるのではなく砕かれた。 「それがコレ」  と、お師匠様が出したエメラルドのペントップ。  小降りで透き通るようなその石は、自我を持ったようで、俺のことを見てくる。 「きれいですね」 「だろ? あんまり見つめると意識を持って行かれるぞ」  その言葉に驚いて後退りをした俺。 「アハハハ、驚いたか?」  お師匠様はそんな俺を見て笑った。 「砕かれたからって、その力が分散して弱くなった訳では無い。強力な怨念には変わらないからね。  これは何人もの霊能者が施術した封印だよ。この力が見える者の所に辿り着いた石は、我々みたいな力を持つ人間に魂を成仏させてもらったんだよ。この石も考えたよね。  大きい石のままだったらきっと呪いは増幅していただろうに。こうやって砕かれて沢山の人間に鎮めてもらって良かったんじゃないかな」  そんな凄い物を持っていたお師匠様を俺は偉大な人だと尊敬した。 「とは言っても、これは何代か前のお師匠様から引き継いだ物だから、私が施術したわけじゃ無いんだけどね。私はただの管理人だよ」  コントみたいにガクッとなった。それを見たお師匠様は更に笑った。 「私のお師匠様は偉大な方だったんだよ。だから龍河もその名に恥じないように、この世の魂を救ってやってくれ」  俺の心に残ったお師匠様からの言葉だった。それから程なくしてお師匠様は亡くなった。  占い師や霊能者は、時により自分の寿命と引き換えに施術をしてしまうときがある。きっと俺もそんな時が来ると思っている、命ある限りこの仕事で幸せな人を増やしたい。大切な人を守るために俺は生きる、そう決めた。
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