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八章
「先生? 今日のカレー、辛くないですか?」
美味すぎてまともに返事が出来ていない。モリモリ食べながら何度も頷く俺。なんだか子供みたいだなぁと自分で思ってしまった。
「先生はバカみたいに辛いカレーが好きなんですよね」
その言葉に思わず吹いた。そしてその米粒が白椿の腕に命中する。明らかに機嫌の悪い白椿。俺はそっとティッシュで拭き取った。
「バカってなんだよ」
「言い間違えましたすみません。アホでした」
口に残った米を再び吹き出すと、今度は白椿の頬に突き刺さった。それを避けきれなかった白椿は、顔を背けるようにして目を瞑った。
「ごめん」
俺はまたティッシュでその米を拭き取る。
「この米粒は私からしたら銃弾にしか思えません。
先生? これは的中したのか外したのか、どちらですか?」
「怒ってる? ごめんなさい」
「いいえ、別に」
「本当は白椿のハートに」
「そんなのはどっちでもいいです!」
かなり怒らせてしまったようだ。しかも俺の話しを最後まで聞いてもらえなかった。
白椿のハートに、の先を聞いてもらいたかったのに。
その日の午後、空いた時間を使って今までの相談者の書類整理をしていた。
「白椿、かなり前の春江さんの件なんだけど」
以前に相談に出向いた春ヶ野春江の一人娘が退院したと電話で連絡があった。
体調は、子供が産める体ではないという事と片目の弱視を除いて至って元気だと言う。実家に戻ってから元気すぎて困ると相談を受けた。
「お元気そうで良かったですね。失明ではなく弱視まで回復できて」
「そうね。きっと亡くなったお父さんが力になってくれたのかも知れないね」
「親の愛ですかね」
「白椿も親が懐かしくなってきたのかな?」
「それは、たまにあります。いつもではないです。だから、からかわないでください」
「わかったよ。じゃぁ俺が愛情いっぱいに育ててあげるから」
「それ、セクハラですよ?」
「ごめんなさい」
相変わらずこのやり取りは、俺が悪いのはわかってはいるがその返しがキツ過ぎて俺の心がないってしまう。
「先生?」
白椿が神妙な面持ちで聞いてきた。
「あの化け猫ちゃんはどうなったんですかね。ちゃんと成仏できたのでしょうか」
春江さんの接見の帰りにファミレスで見掛けた化け猫。随分と成長していたが、あれからどうなったのかはわからない。去り際にニンマリと口角を上げた化け猫。さすがの俺もあれには鳥肌が立った。
「娘さんも帰ってきたことだし大丈夫だと思うよ」
そう言うしかなかった。
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