一章

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 日高は自慢気にベラベラと喋り続けるが、一連の流れは既に把握出来ていた。  こう言った人ほど、息を吐くように嘘を付く。そして本当の流れはこうだ。 日高は大学時代、同じサークルの奥さんに一目惚れして卒業と同時に結婚する。しばらくして女児をもうける。 立て続けに二人目を妊娠するが奥さんが育児ノイローゼになる。その状況にうんざりした日高は出会い系で好き放題乱遊。 それと同じ時期に知り合ったのが現在瀕死の愛人だ。 百貨店で万引きをした愛人を脅して自分の金づるにした。 OLだった愛人は弱みを握られた運命と愛してしまった嵯峨から、自分の全てを日高に捧げた。何度も暴行を受け堕胎させられ、日高の性欲の捌け口になった。優しさとDVのギャップに苦しみながら偽物の愛を信じて求めて土壷にはまった。 DV気質。ここまで来ると気質どころの騒ぎでは無いだろう。 そんな時に拾われた化け猫。こっちも日向に動物虐待を受けていた。愛人と化け猫は立場は違えど同じ境遇だったのかも知れない。傷を舐め合いお互いを励まし合っていた。 仕事で失敗をして暴徒化した日高は、憂さ晴らしの為に化け猫を川へ投げ捨てた。溺れもがく化け猫を笑いながら沈みきるまで眺めた。 死んでも尚、愛人を思いやる化け猫は日高を苦しめる為にこの愛人に取り憑いたという訳だ。 しかし愛人は日高の暴力により瀕死の状態になってしまう。そして日高に捨てられた。どうしても日高を苦しめたい化け猫は、日高本人に取り憑く。 が、この日高と言う男。何に対しても鈍感過ぎて取り憑かれたことに全く気付かない。 そこで俺の所へ足を向かせるように、日高に取り憑いた様を義母に見せる。  と、こんな流れだ。  確かに。この男、恐ろしい程鈍感だ。  ではこの化け猫、何を望んでこの鈍感男をここへ来るように仕向けたのだろうか。  化け猫のイメージのお陰で、本当の事が把握出来た。そして日高が話し終わらないのもお構いなしに俺は現状説明を始める。 「日高さん、猫はお好きですか?」  いきなり振られた日高は、目を丸くさせて俺を見た。 「調子が悪い原因はちゃんとあります。そしてその他にもっと重大な因果関係があります」  日高は黙ったまま俺の次の言葉を待った。 「生き霊です」 「は?!」  驚きすぎたのか尻が浮いていた。 「おまけにそれを操る動物霊も居ます。これだけの物を背負っているのにも関わらず、健在な日高さんが不思議でたまりません。余程の鈍感なんでしょうね」  それを聞いた日高は、浮いていた尻から勢い良く立ち上がると俺を睨み付けた。  罵声を浴びせかけられる、もしくは殴りかかってこられるかと思ったが、そこで日高は思い留まった。  理由は日高にもそれが見えるように呪文を掛けた。よって一時的に俺と同類の見える人間になったのだ。  俺の横にはあの瀕死の愛人と化け猫がいた。それ等が見えたのだろう。  日高は驚いて後退りすると自分が座っていた椅子に引っかかり見事に着地した。
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