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その日の夜から明け方まで、俺は何だか胸騒ぎがしてならなかった。一晩中警戒態勢だったためほとんど眠れていない。
次の日の朝、中庭へ出てみると大和は元気が無く何かに怯えているようだった。そしていくら呼んでも小屋から出てこなかった。
「大和? 大丈夫か?」
大和は小屋から鼻先を出すだけでいつものように尻尾を振らない。
そしてこの胸騒ぎと嫌な予感は後々の大戦前の静けさだったことに気付く。
ついにその時が来た
自室で睡魔と戦いながらうつらうつらしていると白椿が勢い良く入ってきた。
「先生! 結界が!」
「来たな」
俺は急いで中庭へ出る。見上げるとその上空には、敷地全体に張られたドーム型の結界にヘドロのような物がベットリと付いていて、朝なのに光はほとんど差し込んでいない。
「先生、このドロッとした物はなんですか? もしかして」
「そうね、そのもしかしてだね。アイツが結界を破ろうとしている。大胆にも脳天から来るとはたいしたもんだ」
それは蜃気楼のようにユラユラとうごめきながら、高いところから俺達の様子を伺っているようだった。
そしてゆっくりと中庭の真上辺りに集まりだしたヘドロ。
「脳天からくる。気を付けろ」
「はい」
俺の後ろに白椿を隠した。そして更に二人だけの結界を張る。
ゴォォォォ
低く長い地響きと共に結界に圧力がかかり変形し始めた。
「来るぞ」
白椿は二人の結界が崩れないように、俺と背中合わせになりながら呪文を唱える。
ピリッ
結界にヒビが入った。これだけの結界をいとも簡単に破るその力は強大な物だと悟った。
ピリッピリッ
そのヘドロは自分が入れるだけの穴を開けると、流れるように入り込んでくる。そしてスライムのようにドロッと滴の形をしながら穴から垂れ下がる。
少しずつ円を描きながら揺れるソイツは、地面にタッチダウンする直前にプツッと天井から離れてドスンと落ちた。
「来たなヘドロめ」
既に俺の中では結界を破られた怒りと神聖な中庭を汚した怒り、万全では無かった自分の体調への苛立ちが重なり戦闘態勢でしかなかった。
「先生落ち着いて下さい」
白椿のその声に我を取り戻す。
「先生、冷静な判断が必要です。落ち着いて下さい」
頼もしくなった白椿と俺と、一世一代の戦いが始まる。
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