八章

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 芝生の上に落ちたヘドロは、モゾモゾと動き出すと空気を含んだ斑の球体になった。  しばらく俺との睨み合いの後、沸々と音を立てて赤みを帯びる。それはまるで溶岩のようで、時間が立つに連れて内面から蒸気と化した空気がボコボコと噴き出してくる。これはヘドロなりの怒りを表現しているのだろうか。  熱を持ったヘドロは一個体ではなく、いくつもの物体が集まって出来た集合体なのだろうと感じた。そして中心にいる何かがその物体を引きよせているのではないか。きっとそれが本性なのだろうと推測する。 「ツヨイタマシイクウ」  唸り声に混じり、ハッキリと強い魂を食うと聞こえた。明らかに霊能者を食うつもりでここへやって来たことは明確。  本性からしてみたら白椿と大和は、今まで食らってきた霊能者とはひと味もふた味も違う超絶品に違いない。だが、それを食らったからといってその力が反映されることは無い。俺達霊能者の力を譲渡するとか吸収するなどと言ったそんな話しは聞いたことがない。きっとどこかで間違えた認識をしたのだろう。その粗末な考え方で食われた霊能者が哀れでならない。  破られた結界がハラハラと光を屈折させながら俺達に降り注ぐ。そして地上から二メートルくらいの高さだけ残して全て壊れた。 「雑魚霊を入れないためにこれだけ残したってワケか。頭が良いなぁ」  俺と対決するにあたって、不要な霊は邪魔なだけだと判断したのだろう。  どうやらコイツの腕となる物は三本あるらしい。突沸に紛れて伸縮する腕らしき物が見える。ソイツ等を抑えてしまえば身動きが取れなくなるだろう。  そして球体のど真ん中に核がある。あのドロッとしたヘドロが裂けた隙を狙って攻撃を加えればダメージを与えられる。  俺は呪文を唱える。するとヘドロに紛れてある物を見た。 「お師匠様!」  俺に何かを伝えたかったのか、それとも助けを求めたのかは分からない。確かにお師匠様の歪んだ顔が見えた。 「くそっ! お師匠様を食らったのはお前だったのか!」  俺を守ろうとして命を落としたお師匠様。あの時は何も分からずに生かされた事だけを悔やんでいたが、その不可解な死が今繫がった。  あの時、お師匠様は俺を池に突き落とした。水で匂いを消すために俺を池に隠した。そして水から上がるとお師匠様は死んでいた。  あの時の記憶が蘇る。そうだ、水面に沈みながら天を仰いで見た物は、お前だ。
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