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「先生!」
白椿の声に驚いて我に返った俺は、現実を把握するのに時間が掛かった。
気が付くとヘドロの三本目の腕がこっちへ向かってきている。
「クソッ!」
俺目がけて向かってきたヘドロの腕だったが、途中で進路を変えて右下の地面へ突き刺さった。
「大和!」
俺の前を物凄い勢いで駆け抜けた大和。それを狙ったヘドロだったが、全てが弱っている上に俊敏な大和を捕まえられず失敗。的を外したヘドロの腕は地面に突き刺さったまま動けないでいる。
「大和、出てきたらダメだ!」
大和は俺達から離れた場所でヘドロを睨みつけ牙を剥きだし威嚇する。
「先生、大和は本気です。畳み込むなら今です」
白椿の言葉は間違ってはいなかった。様子を伺っている間に、またヘドロが回復して再び突沸が始まるかも知れない。お互い体力気力勝負でいつ仕掛けるか、それが今だ。
こんな軟弱な俺を冷静に見ている白椿は本物の強い霊能者になれると思った。
それに大和だ。ヘドロの意識を俺達からそらそうと飛び出してきたに違いない。あんな小さな体で、この恐ろしいヘドロに立ち向かうだなんて、大和は英雄でしかない、そう思うと自分の弱さが情けなくなる。
よし、ヘドロが回復する前に仕留めよう。
地面に刺さった三本目の腕は既に石化している。これで俺達を襲ってくる腕はない。一気に畳み込んでやる。
ブヨブヨになったヘドロの隙間から、チラチラと核が見えてきた。
今だ、出でよ緑龍!
俺は渾身の一発をヘドロに向けて放つ。真っ直ぐ向かった波動は、緑龍と共に核を捉え突き抜けた。
ヘドロは一瞬動きを止めると痙攣を始める。
それと同時にヘドロは最後の力を振り絞り、四本目の腕で白椿の脇腹を突いた。
なに?! まだ腕があっただと?!
白椿はその衝撃のせいで声が出せないでいた。が、それでも口をパクパクさせながら呪文を唱え続け膝をつく。
「白椿!」
俺はスローモーションのように倒れていく白椿を抱き留めた。
何が起きたのかは理解できている。でも俺の脳内はそれを認めようとしていない。
「白椿! しっかりしろ!」
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