八章

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「だから真次さんもありがとうって言ってたんですね?」 「そういう事だね」  ペットボトルを置いた帆乃香の手を取り、そこに付いた雫をタオルで拭いてやった。そしてそのまま両手で握る。 「先生、そんなに握ったら私、何も出来ないじゃないですか」 「代わりに俺がしてやるから」  帆乃香は魔法が解けて一般の人になった。  俺が掛けた魔法は、凄腕の霊能者になれる魔法。だが、一度離脱したら二度と霊能者にはなれない、そんな魔法だった。そして恋をしたら解ける。それが帆乃香を守る唯一の手段だった。  霊能者を食らうヘドロ。絶対に一般人を食らうことはないと聞いていた。いつか必ず白椿を食いに来ると踏んでいた。だからこの魔法を掛けた。それだけ白椿は個性のある強い霊能者になると思い、知らず知らずのうちに自分の元へと呼び寄せていたのかも知れない。  だが、結果は白椿を守ってやることが出来なかった。そして掛けた魔法がお守りになって命だけは助かった。  白椿はいなくなってしまったけれど、今は普通の女の子としての帆乃香を俺は大切にしたいと思う。 「先生?」 「ん?」 「先生も自宅に戻って休んでください。私知ってますよ」 「何を?」 「その右手から出る金の粉」  そう、俺は最後の最後にお師匠様から金粉を受け継いだ。これは人を癒やす力があり、怪我を治したり記憶を戻したりすることが出来る医者要らずの金粉だ。 「俺はティンカー・ベルだから」 「先生? ティンカー・ベルの粉は空を飛べるんですよ?」 「え! そうなの?」  そう言って二人で笑った。  自宅に戻ると大和が元気よく迎えてくれた。 「大和ぉ、よしよしぃ」  俺は大和の顔を両手で掴むとモシャモシャする。 「あれ、その目どうした?」  大和の片目が白濁していた。  一つ一つの戦いで、その都度損傷を負う大和。今回は大戦過ぎた上に、俺が甘えすぎていた代償が今ここに現れた。 「ごめんよ大和。もうお前には無理はさせないから許してくれ」  次の日、大和は眠るように自分の小屋で死んでいた。
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