一章

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「生き霊は、死んでも無いのに取り憑く事が出来るハイスペックな霊です。おまけに彼女が大切にしていたペットまで同行している」  生き霊となって自由に動けるようになった愛人はゆっくりと日高に歩み寄る。そして背後につくと両肩に手を乗せてピッタリと背中に張り付いた。その後を追うように化け猫が日高の足元にまとわりつく。 「どうしましたか? 日高さん」  震えが止まらない日高は、俺をジッと見て助けを求めてくる。恐ろしい光景に声も出せないのだろう。 「見えていますよね? これが誰と何なのか分かりますか?」  ブルブルしながらゆっくりと頷く。  人生で初めて霊を見たのではないだろうかと推測する。 「彼女達は何をしに姿を現したのかご説明しましょう。それとも」  俺がそこまで言いかけると、現実を見た上で我に返ったのだろう。日高はテーブルを叩きながら立ち上がった。 「アンタに何が分かるって言うんだ! 僕の何を知ってるって言うんだ! いい加減な事を言ってると金は払わないからな!」  俺はゆっくりと頷いた。  その態度が気に入らなかったのだろう、勢い良く反転すると椅子を倒しながら部屋から出ていった。 「先生!」  白椿は追い掛けろと促す。が、俺はその気は全く無い。 「大丈夫、また来ますよ」  白椿はそれを聞いて安心したのか、少し微笑むと椅子を起こしてティーカップを下げた。  その日の相談者は日高以外全て順調に終了した。  白椿と向き合って夕飯を食べながらこんな話になった。 「今日はご近所さんから白菜をいただきましたので、お豆腐の白菜中華餡かけにしてみました」 「いただきます。白椿は料理が上手だから、御飯が楽しみだよ」 「いつも褒めていただいてありがとうございます。先生のお口に合うかどうかは分かりませんが頑張りました」 「いつもありがとう」  毎日こんなに美味しい御飯が食べられるなんて幸せだなぁと思っているが、残念ながら夫婦ではない師弟の関係なので、本当の愛のある幸せはまだまだ遠い。そろそろお嫁さんをもらわなければ、と地味に焦る俺。 「白椿?」 「なんですか先生」 「いつも思っているんだけど、白椿って呼びにくいんだよね」 「でも、この名前は先生が私の為に付けてくれたんですよ?」 「乱れ落ちることのない椿の花びら。そんな強い霊能者になってもらいたいと思ったんだよね。  でも、呼びにくいから椿ちゃんとかはどうかな?」 「却下です」  白椿は本当に真面目でパーフェクトな人。でも、そんな白椿にも欠点がある。  夕飯を終えて後片付けをしていると。 「キャー」  白椿が俺の後に回り込み抱きついてきた。  このシチュエーション、俺的には嫌いでは無い。生ゴミに紛れて白椿が嫌いな青虫が這っていた。 「きっと今日の白菜にいたんだね」  俺はそう言って外へ逃がした。
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