九章

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 その日の夜、帆乃香が寝た後にリビングで酒を飲んでいた。飲まずにはいられなかった。大和が帰ってきてくれたと浮かれ気分で子犬から目が離せない。と言うより、本当はあちこちを()じりすぎて困っていた。 「こらこら、そこは齧ったらだめだよ。だからそっちもダメだから」  それの繰り返し。出っ張る物全てに噛みついてガジガジする。 「お願いだから、リフォームする場所が増えちゃうから。それはダメだって! コッチにしてよ、あー、それもダメ。こんな夜中にピーとか鳴ったら帆乃香が起きちゃうじゃないか。コッチ、コッチにおいで。犬って夜行性だったの?」  そう言っても全く言うことを聞く気配がない子犬。そして泣きそうになる俺。嬉しいんだか悲しいんだか。  ひとしきりガジガジすると、子犬はふと中庭へ目をやる。俺も気になってそっちを見る。  外に出たいのかな?  ゆっくりとサッシを開けると子犬は勢いよく飛び出し、中庭の真ん中にお座りをした。そして天を見上げ尻尾を振る。  新月の夜。晴れた夜空に星が瞬き、プラネタリウムで見たような大きな流れ星が横切る。  風が吹く。中庭の空気を底から混ぜ合わせるように渦を巻く。  来た。  子犬が見上げた上からゆっくりと星が一つ落ちてくる。ふわりふわりと何かを探しながら落ちてくる。  俺の鼓動が高鳴りだした。いても経ってもいられなくなり、中庭へ降りて子犬と一緒に天を見上げる。  さぉ、おいで。  俺はその星に向かって両手を広げた。  すると物凄い勢いで急降下してきた。  大丈夫だよ、ちゃんと受け止めてやるからな。  目視出来るところまで近づくとそれはやはり緑龍だった。緑色の粉をまき散らしながら青白く光る。ふんわりと鬣をなびかせ俺目がけて降りてくる。  更に大きく両手を広げて背伸びをした。  おいで緑龍。  そして再び緑龍と出会えた。俺の顔にまとわりつく龍の鬣。ツルッとした鱗は手の平よりもはるかに大きい。この息遣い、俺に巻き付く時は甘えたい時、角を触れと擦り付けてくるこの感じ。  おかえり。  嬉しかったのか、俺に巻き付き締め上げる強さが尋常ではない。 「だから、痛いから」  そう言って頭を撫でた。
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