22人が本棚に入れています
本棚に追加
/74ページ
その日の夜、帆乃香が寝た後にリビングで酒を飲んでいた。飲まずにはいられなかった。大和が帰ってきてくれたと浮かれ気分で子犬から目が離せない。と言うより、本当はあちこちを齧じりすぎて困っていた。
「こらこら、そこは齧ったらだめだよ。だからそっちもダメだから」
それの繰り返し。出っ張る物全てに噛みついてガジガジする。
「お願いだから、リフォームする場所が増えちゃうから。それはダメだって! コッチにしてよ、あー、それもダメ。こんな夜中にピーとか鳴ったら帆乃香が起きちゃうじゃないか。コッチ、コッチにおいで。犬って夜行性だったの?」
そう言っても全く言うことを聞く気配がない子犬。そして泣きそうになる俺。嬉しいんだか悲しいんだか。
ひとしきりガジガジすると、子犬はふと中庭へ目をやる。俺も気になってそっちを見る。
外に出たいのかな?
ゆっくりとサッシを開けると子犬は勢いよく飛び出し、中庭の真ん中にお座りをした。そして天を見上げ尻尾を振る。
新月の夜。晴れた夜空に星が瞬き、プラネタリウムで見たような大きな流れ星が横切る。
風が吹く。中庭の空気を底から混ぜ合わせるように渦を巻く。
来た。
子犬が見上げた上からゆっくりと星が一つ落ちてくる。ふわりふわりと何かを探しながら落ちてくる。
俺の鼓動が高鳴りだした。いても経ってもいられなくなり、中庭へ降りて子犬と一緒に天を見上げる。
さぉ、おいで。
俺はその星に向かって両手を広げた。
すると物凄い勢いで急降下してきた。
大丈夫だよ、ちゃんと受け止めてやるからな。
目視出来るところまで近づくとそれはやはり緑龍だった。緑色の粉をまき散らしながら青白く光る。ふんわりと鬣をなびかせ俺目がけて降りてくる。
更に大きく両手を広げて背伸びをした。
おいで緑龍。
そして再び緑龍と出会えた。俺の顔にまとわりつく龍の鬣。ツルッとした鱗は手の平よりもはるかに大きい。この息遣い、俺に巻き付く時は甘えたい時、角を触れと擦り付けてくるこの感じ。
おかえり。
嬉しかったのか、俺に巻き付き締め上げる強さが尋常ではない。
「だから、痛いから」
そう言って頭を撫でた。
最初のコメントを投稿しよう!