九章

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 龍の世界から俺の所へやってきた緑龍。初めて会ったのは、俺がまだ未熟で半人前にも満たない頃だった。  お師匠様に初めてのお使いを仰せつかった時のこと。何処どこの神社へ行ってこい、とだけ言われて放り出されたことがある。そして、明日の正午には到着しろと尻を叩かれた。  え?  慌てて飛び出しひたすら車を走らせる。一晩中走り続けてクタクタになった俺は、這うように神門まで辿り着いた。  そこは龍が祀られている神社。正午ギリギリで拝殿に立つと、今までの大雨が嘘のように上がり、太陽が俺に光のスポットライトを当てると、どこからか声が聞こえた。  乗るか?  頭の中に響いたその声は、ぼんやりと優しく囁いたように感じた。  はい。  迷いもせず即答だった。  その帰りに見つけたのが大和だ。サービスエリアで腹ごなしをしようと止めた先にいた捨て犬。段ボールには張り紙がある。  ありがとうございます。 「は? 命捨てといて、ありがとうございますはねぇだろ」  俺は迷わず拾った。  サービスエリアには食べ物がある。だから大丈夫だと思ったのだろう。  捨て犬の土産を持って帰るとお師匠様がこう言った。 「まぁ、随分と大きな土産を二つも持ってきたな」 「二つ?」  捨て犬はお師匠様には絶対に近づかなかった。お師匠様も捨て犬を可愛がることはしない。  そして捨て犬は俺の周りをクルクルっと回ると、ふくらはぎにガブリと噛みつく。  その瞬間、高圧電流に感電したように体が痙攣する。あまりの衝撃に俺は気を失った。  あの時、お師匠様は全てを分かっていて俺を神社に向かわせた。そして龍と捨て犬に巡り会えるようにお使いをさせた。  今思えば、龍は社になるものが欲しかったのだろう。それが捨て犬の大和。その大和が死んでしまい新たな社を呼び寄せた、それが今回の柴犬だ。  そしてお師匠様が大和を可愛がらなかった理由は相性の問題があった。俺は龍、お師匠様は白蛇だからだ。長いもの同士、巻き付き合わないように、程良い距離を置いていたのかも知れない。  新しく仲間になった柴犬は、イタズラ好きの女の子、そう、元気の良いじゃじゃ馬だ。  勘弁してくれよ。  ちなみに帆乃香が命名した柴犬の名前は、ウメ子。そして俺の心は複雑。
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