九章

6/7

22人が本棚に入れています
本棚に追加
/74ページ
 挨拶を済ませていつもの流れで事が進む。任意でカルテを書いてもらい、支度をするふりをしながら透視をする。  夕べ見た夢と同じだな。  この相談者の血縁の誰かが、俺にアクセスしてきた内容とほぼ同じことが感じ取れた。きっと、この相談者や親族を助けて欲しいのではないかと察する。 「はい、一通り書けました」  長くて白い指がとても印象的なこの男性は、この手を使って繊細な仕事をしていると思った。そしてこの白い肌にもそれなりの理由あり、ここへ来た理由も今解かれる。それらを解決したら、きっと良い方向へ流れ出すだろう、それを手伝えるのなら俺としては本望だ。 「御記入ありがとうございます」 「あの、今日は龍河先生とお会いできて良かったです。何だかここへきた途端、体が軽くなったと言うか気持ちが軽くなった気がします。それに震えも止まりましたし楽になりました」  それもそのはず。宗佑には憑きものがいたのだから。入室するまで女の陰がチラついていたのを確認している。俺と目が合うとその女の影はバラバラに崩れ、蝶が舞うようにハラハラと散っていった。  上手く宗佑に隠れて侵入出来たとでも思ったのだろう。が、俺の守護神を見て逃げたのだと推測する。  このまま放っておけばまた宗佑にまとわりつくだろう。女が悪態をつく前に双方クリアにしてやらなければならないと思った。 「それは良かったです。ここは守られていますから安心して下さい。ここに来られた相談者の方は、みんなそう言って帰られますよ」 「そうなんですね。なかなか予約も取れない所へ入れていただけて、運と言うかタイミングと言うか、本当にありがとうございます」  見た感じから言葉使いまで、本当に真面目な人なんだなぁと思った。  帆乃香が温かいほうじ茶を運んできた。 「今日はほうじ茶です。温かいうちにどうぞ」  宗佑は頭を下げると一口飲んだ。ゴクリと飲み込むと、しばらく動かないまま一点を見つめている。どうやら自分の過去が甦ってきたのと同時に、夕べ見た夢の人物が宗佑を伝って俺にアクセスしようとしている。 「あなたは夕べ私の夢に出てきた方ですね? 先ほどの散って行かれた女性とは別の方ですね?」  宗佑はゆっくりと頷いた。
/74ページ

最初のコメントを投稿しよう!

22人が本棚に入れています
本棚に追加