九章

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 宗佑はほうじ茶をゆっくりと机に戻した。そして座り直した姿は完全に女性だった。 「今日はどうされましたか? 先ずはお名前を聞かせていただいてもよろしいでしょうか?」 「私は由美子(ゆみこ)と申します。宗佑の祖母に当たります」 「お祖母様が何故、孫について回るのですか? 守護霊ではありませんね?」 「宗佑を守りたいのです」  それは、この男性の喉から出てきたとは思えないほど高い声だった。ゆっくりと喋る言葉には品が有り、その育ちを伺うことが出来る。 「夕べの出来事で、私としては大体の事は把握できています。  先ずは宗佑さんのお母様。宗佑さんには亡くなったと告げてあるようですが生きていらっしゃいますね? それと宗佑さんのお父様は実の父親と言うことですよね?」  ゆっくりと頷く。 「では由美子さんにお聞きします。あなたは何故、成仏せずに宗佑さんについておられるのですか? このままだと悪しからぬ霊になってしまいますよ」  左手で襟足を整える。すると、由美子が宗佑よりも強く浮き出てきた。その目は至って真剣で高い本気度が伺える。 「宗佑を亡き者にしようとしている人物がいる。だから宗佑を守らなければならない」  大体の察しは付いている。 「それは宗佑さんの戸籍上のお母様ですね?」  事の発端はこうだ。  宗佑の父親は実父であり、産みの親は育ての母の親族に当たる。そして、子孫を残し財産を継がせたかった父親は男の子を強く望むがなかなか子宝に恵まれなかった。そこで育ての母の親族に子供を産ませたと言うわけだ。  時は経ち宗佑の両親に子供が産まれる。兄弟が出来た事を嬉しく思った宗佑だったが、両親はその腹違いの弟だけを可愛がり、必要が無くなった宗佑を追い出してしまった。 「かわいそうに」  俺の心の声が漏れてしまった。  そしてまだ続きがある。  自立し美容師として働き始めてからその弟が亡くなる。すると手のひらを返したように宗佑を求め始める両親。 「酷すぎる」  これも俺の心の声。  問題はここから。  何を思ったのか育ての母は宗佑を亡き者にしようと企む。その理由は、財産を全て自分の物にしたかったと言う欲。そして育ての母と財産を支配したいという先祖の恨みだ。  育ての母のご先祖様で、貧困のために無くなった人がいた。その霊が今でも育ての母につきまとい金をむさぼり尽くそうとしている。
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